【ぶんぶくちゃいな】削られる香港市民の権利と自由:「選挙は一体だれのため?」

2021年が始まってまだ3月に入ったばかりだが、香港では1カ月ごとに政治環境や社会制度が七転八倒のような変化が起きている。

2月末の中国政府における、香港とマカオの行政特別区の上部機関である中央政府駐香港連絡弁公室(以下、「中連弁」)トップが「愛国者治港」(愛国者が香港を治める)宣言が一つのスイッチになった。故・トウ小平も使ったこの言葉が文字面は全く同じでも、その意図する意味が根本的にすり替えられていることは、「愛党無罪 愛港有罪」で説明したとおりだ。

そのこと自体が香港市民にとって驚きだったのに、そこから雪崩のように続く一連の出来事は暮らし慣れた香港社会の常識を覆し続けている。まるで毎朝目をさますと昨日と違う社会が広がっている…そんなSFのような現実において、好むと好まざるにかかわらず強制的にジェットコースターに乗せられた香港市民は振り落とされまいと手すりを握り続けるしかない。

あの発言以降、香港をめぐって起こったことを簡単に書き出してみよう。

1)「全人代、香港選挙改革に着手」:2月22日の「愛国者治港」の発言を受ける形で、3月5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)において「香港の選挙制度改革」議題が最優先で論じられることになった。先月の発言直後、「そんな議題は上がっていない」と香港区全人代代表が述べたにもかかわらず、である。

2)「2019年立法会選挙民主派立候補者に対する公判開始」:今年1月6日早朝に一挙に逮捕された53人の民主派関係者が突然、2月28日に警察出頭が通知され、すぐさま香港国家安全維持法(以下、国家安全法)違反容疑で起訴された。3月最初の1週間のメディアの話題を独占。

3)「721元朗事件公判」:2019年7月21日に起きた元朗無差別襲撃事件の公判が2月21日に始まった。しかし、警察が一時は「民主派による扇動があった」と判断、その「首謀者」として拘束した林卓廷・元立法会議員(保釈中)らは自身が証人として公判に呼ばれていないと声明。公判は現在も続いている。

4)「RTHK新局長就任」:3月1日、香港の公共テレビ局「香港電台」(以下、RTHK)の新局長に政府の政策主任(AO)が就任。同日、人気番組のプロデューサーら責任者複数の辞職が伝えられる。

5)「香港中文大学学生会幹事総辞職事件」:3月1日に就任したばかりの香港中文大学(以下、「中文大学」)の新学生会幹事グループ「朔夜」がその日のうちに総辞職した。2019年11月に警察が突入して催涙弾が飛び交ったこの大学の学生組織に対する厳しい締め付けを印象づけた。

全人代における香港の選挙制度改革話題は日本のメディアも大きく報じているので、関心を寄せる方々の耳に入っているだろうが、今回はその裏で同時に香港を揺るがせている前述2)から5)の事態との関係を元に、香港市民目線で事態を解説してみよう。

●60年に及ぶ大学学生会の歴史に終止符?

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