辣椒「漫画で読む 嘘つき中国共産党」:「愛国無罪」なら辣椒こそ無罪だろ!【読んでみました中国本】

SNSで政治がテーマになった時、あるいは昨今では面と向かって、日本でも彼の国でも「そんなに政府に不満ならば、この国から出ていけばいいじゃないか」というコメントがほぼ確実に飛び出す。

「政府に不満なら、この国から出て行け」

民主主義の国では政府は我われ国民が選ぶ。政府ありきの国ではないわけで、政府が気に入らないからといって我われが追い出されるいわれはない。あくまでも国を出るかどうかは我われ自身が決めることだ。

だが、中国においては…

「気に入らなければ出て行け」――この言葉を投げつけられた時、中国人の友人たちが見せる表情は複雑で、またさまざまだ。

「ぼくは愛国者だからね、」中国に進出した海外メディアと交流のあるフリーランスのジャーナリストはこう言った。海外留学の経験もあり、今でも年に何度も海外での会議や取材に出かける。それでも、彼は必ず中国に戻り、中国のメディアとの協力関係を大事にして働き続けている。

「この国を良くしたいから批判する。根無し草になって焦点を失ってしまった人をたくさん見てきた。そんなふうになりたくないんだ」

一方で、「どこの誰かわからないやつに、『出て行け』と言われる筋合いはない。ぼくにそんなことを言う権限は誰にもない」と別の政府批判者は言う。「ぼくの父祖は今の政府ができる前からこの国にいた。なぜ後から出来た政府に追い出されなければならないんだ?」

国に批判的なのは愛国心から。国と言っても国土ではない、政府の政策に対してだ。まったくの第三者に出て行けといわれる筋合いは誰にもないはずなのだ。

だが、しかし、国に追い出されてしまったら? あるいは生きるための手段をすべて奪われてしまったら? …前述の友人たちはそうならないように、細心の注意を払っている。それを転向とか日和見というのは安全な土地に暮らす我われにとって非常に簡単だが、中国人として生まれた彼ら全員に「劉暁波になれ」と求める資格は我われにはないのである。(日本にはこのことを履き違えている人がたくさんいる。)

[劉暁波:1955年生まれの中国人としてはあまりにも著名な人権活動家。元大学教師で1989年の天安門事件の際に学生側に立って逮捕され、投獄される。2年後に病気治療の名目で釈放されるも軟禁状態の中、執筆活動を続ける。その後もなんども投獄、釈放、軟禁を繰り返し、2008年の「世界人権宣言」60周年に合わせて起草した「零八憲章」で投獄され、懲役11年の判決を受けて現在服役中。詩人である夫人も夫の逮捕後自宅でほぼ誰とも会えない軟禁状態に置かれており、昨今では精神的に不安定になっていると伝えられる。]

厳しい状態で敢えて信念を曲げずにぎりぎりの状態で暮らす彼らに手を差し伸べることくらいが、第三者の我われが実際にできることなのだ。

今回ご紹介する本の執筆者、辣椒(ラージャオ)は、日本での旅行中、中国での生活の糧だったネットショップが閉鎖され、また彼の作品発表手段だったネットSNSアカウントが強制閉鎖されるという事態に直面する。彼と同行していた夫人は身の危険を察知して、そのまま日本に留まることを決めた。

●ぴりりと辛口でひねった「唐辛子」

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