【ぶんぶくちゃいな】新型肺炎騒ぎに彷徨う香港

李文亮医師が亡くなった。

「【ぶんぶくちゃいな】武漢人」でもそのインタビューを紹介したとおり、昨年12月の時点でSNSグループ内で「SARS患者が出た」と大学同級生たちに注意を喚起した結果、公安局に「不実な情報を拡散した」として訓戒書にサインさせられた、武漢市中心医院の眼科医だ。訓戒書のわずか1週間後に発熱して入院、先月末には症状が反復してICUに収容されつつも、オンラインで名乗り出て一躍「時の人」となった。

それと前後して、やはり患者出現をSNSで発信して訓戒を受けた女性医師、さらには李医師の死後にもう一人、医師が名乗り出た。1月1日に武漢市の公安局が「8人の“ネットユーザー”を不実な情報拡散で法的に処分した」と発表したが実はこの8人はすべて医療関係者だったことが明らかになっている(ただ、李医師自身は処分を受けたのが3日であり、自分がこの8人に含まれるかどうかは、本人も「分からない」と述べている。そのインタビューの一つが「東洋経済オンライン」で翻訳公開されている)。

現場の医師たちの警告を一体誰が握りつぶしたのか。疫病発生の情報は中国の治安維持にとって非常に大事な情報であり、個人が告発するのは決して許される行為ではないことを現場のプロである医師であれば痛いほど知っている。だからこそ医師仲間が集まるグループで注意を喚起としたのは、病院の報告を受けているはずの当局がその事実を公開しようとせず、家族や仲間を抱える医師が不安にかられたからだ。

結果、前述したとおり1月1日の時点で8人の医療関係者が訓戒を受け、さらに李医師も3日に訓戒書にサインさせられた。この8人という数に李医師が入っていないとすれば、李医師と同様に訓戒を受けた医師がほかにもいる可能性はある。そして李医師はその1週間後には患者から感染して発熱し、2月6日夜に容態が急変して亡くなった。

これはただの「不幸なめぐり合わせ」ではない。医師として、家族を持つ身として、また自身の危険性を感じていたのにそれでも通常の診察現場で患者から感染した…という現実は残酷すぎる。そして、中国の現場では李医師のように公の場で警告を発することはしなかったけれども、同様の危険にさらされ、不安にかられつつも、その責任を全うしなければならない立場にある人たちが何千人、何万人、いや何十万人もいるのである。

現在のところ、感染が集中しているのは中国国内だが、それがまた周囲の国々や地区に難題をもたらしている。

中国の国家移民管理局のウェブサイトによると、2月7日の時点で中国国籍所有者及び中国から入国する人物に対して、102カ国が特別措置を発令している。両国間を往来する飛行機を全運休したり、中国人向けビザ発給を一時停止したり、過去の一定期間に湖北省を出入りした中国人や非自国人の入国を禁止したり、中国とは名指しせずに「ハイリスク国」の滞在経験を規制対象にしたり、さらにはマレーシアのように「湖北省戸籍」の中国人だけビザと入国を一時的に拒絶したりという条件をつけているところもある。

なお、日本政府は2月1日より、日本入国申請当日より前14日以内に中国湖北省に滞在した記録のある外国人、及び同省発行の中国パスポートを所持する者は原則として入国を認めないという対応を採っている。

各国ともに戦々恐々であることは間違いないが、そのうち最も激しい反応を見せているのが香港だ。市民の中から「中国との往来口をすべて閉鎖すべき」という意見が噴出し、それを林鄭月娥行政長官がけんもほろろに拒絶したことで、またもや政府は激しい非難の矢面に立たされている。

●悪夢再来下の香港

ここから先は

10,502字
この記事のみ ¥ 300

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。