【ぶんぶくちゃいな】「戦勝」に酔う中国政府vs.「戦争」責任を問う市民


【ぶんぶくちゃいな】新華社の『謝罪しろ、感謝しろ』に見る中国戦時ロジック」で、やっとのことで新型肺炎の確定患者数の伸びが下がり始め、これまで国内に向けて感染事情の抑制を「戦時」に置き換えて「戦時ムード」を振り巻いてきた中国政府が、今度は中国人の「犠牲」を手に握り、世界に向けて「戦後賠償」を求め始めたと書いた。

それから1週間後、中国政府は明らかな「戦勝」ムードに酔い始めた。実際ニュースチェックをしていても新型肺炎ニュース以外の話題が各サイトにどっと流れてくるようになった。そのどれもが、すでに「ポスト新型肺炎」をぷんぷんさせている。実際には3月13日だけで死者が新たに14人も増えているというのに。

そのうちの一つが「中国NewsClips」でも取り上げた、臨時野外病院の全院閉鎖である。政府系ニュースサイト「澎湃新聞」はこれを「閉門大吉!」と形容した。禍々しい感染を専門的に扱ってきた病院が3月10日に閉鎖された、そのことを「大吉」と喜んでいる。さらに職場再開、生産再開に関するニュースもあちこちから流れ出した。

実はこの10日、国家主席の習近平が武漢封鎖後初めて同地を「視察」した。ただ、視察とはいっても市民の誰とも接触せず、慰問もせず、病院で奮闘する医療関係者たちにもだだっ広いホールの真ん中に準備されたテレビ画面越しの激励を飛ばしただけだった。

突然週明けから伝えられた野外病院の完全閉鎖は、この視察を「大吉」の始まりにするためのトリックだったようだ。政府系メディアの報道ではこれらの病院に残っていた患者の移送が円満に完了し、すべてが丸く収まったかのように伝えられていたが、その舞台裏はかなり突然に行われ、患者の移送先に困った野外病院もあったというドタバタ劇を伝える声も流れた。

しかし、確実にこの日から中国の政府筋では「ポスト新型肺炎」ムードが熱を帯び始めた。12日には国家衛生健康委員会が「感染はピークを超えた」と発表。それと同時に「湖北省以外で新たに増えた患者数7人のうち6人は海外からの『輸入例』である」と付け加えるのを忘れなかった。

中国は「戦況」から脱しつつある、激戦地は他所に移ったーー皮肉なことにこれに続くように、今週に入ってから欧州、そして米国での感染拡大がトップニュースを飾るようになり、それに乗じて政府系メディアは「輸入患者」(外国人患者のことだが、「逆輸入」という言葉は使われず一律「輸入」と呼んでいる)の動向や、イタリアなどの国々向けの救援物資や医療関係者の出立などを大きく伝えるようになった。

それにしても、あれほどまでの大混乱を極めた中国の騒ぎを前に、日本も含めた西側諸国の政府がほぼ危機感を持たず、なんの心の準備もしていなかったことには中国人すら驚いている(「ニューヨークタイムズ」にも北京在住のイギリス人が書いた「中国が稼いだ時間を西洋社会は無駄にした」という記事が掲載されている)。

これまで自国経済は完全にストップし、世界経済の足をひっぱり、人々も意気消沈し、これからどうやってメンツを立て直していくか、というさまざまな課題がずっしりと肩にのしかかっていたところに、世界全体がパンデミックで完全停滞に陥ってしまった。これをチャンスと言わずしてなんと言おう?

それが、彼らの「戦勝」気分を後押しした。

●「コロナウイルスは米軍がばらまいた」?

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