【ぶんぶくちゃいな】中国国内で高まる「承認欲求」と台湾叩き
「日本企業を逃がすな!」(別譲日企跑了)。
先週、朝のニュースチェックをしていたら、こんなタイトルの記事が目について、ぎょっとした。
中国メディアに「別譲◯◯跑了」(逃してはならない)というタイトルの記事が踊るのを見るのはこれが初めてではない。4年ほど前には、「李嘉誠を逃がすな」という、国有通信社「新華社」傘下のシンクタンクが発表した記事が出現して、物議を醸した。
香港のトップ富豪である李嘉誠氏が経営する長江実業グループが、上海の同グループ本部ビルを含む中国国内複数都市の大型不動産を売却することを発表したことがきっかけだった。それを「黙って中国から撤退しようとしている」と解釈し、民間の事業者に「思いとどまらせろ」と政府的な上目線をぶつけた論調に、社会がざわめいた。これを受けて李氏側は、「不動産物件の売却は完全にビジネス上の判断によるもので、中国撤退を意図したものではない」と釈明、やんわりとその主張を否定した。
だが、今やそれは文字通りの「中国撤退」だったことは明らかになっている。もちろん、李氏や長江実業側は公式には認めていないけれども。これまでにメディアが報道で明らかにしたところによると、トウ小平、江沢民、そして胡錦濤の3トップ時代に中国との取引を拡大し続け、一時は「北京の土地の半分の権利を握っている」とまで言われた李氏が、習近平体制以降不協和音が続いていた。かつて習が福建省長を務めていたときに建設プロジェクトを李氏が辞退したことが因縁となったらしい。
李氏は中国からの事業引き上げ後、会社を息子らに任せて第一線を引退した。そして、昨年の香港デモの際に「(デモを続ける)若者たちに寛容に」という意思表明をしたことが、また中国首脳を激怒させた(詳しくは「ぶんぶくちゃいな vol.294 『港人治港』に激怒した中国政府」を参照のこと)。
だが、李氏側は「意図が曲解されたようだ」とまたやんわりと交わし、正面衝突は避けた。みごとなビジネスマンぶりである。だからこそ、逆に当時、政府系シンクタンクともあろうものが「逃がすな」などという身も蓋もない声を直接発したことが際立つ。そんな中国政府関係者の粗野な猛々しさは、外交部の報道官が発した「新型コロナウイルスは米国軍がばらまいた可能性もある」という言葉にも引き継がれているではないか。
●すわ、日中冷却?!
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