【ぶんぶくちゃいな】「国家安全法」という口実、そして親中派も逃亡を始めた香港
2020年は中国も香港もとにかく心落ち着かない1年だった。もちろん、新型コロナを計算に入れると、心落ち着かないのは中国や香港だけではないのだけれど。だが、ここでいいたいのはもちろん、新型コロナ「以外」のお話である。
特に香港は昨年のデモに続き、いやたぶん昨年はデモに参加することができて少なくとも自分の思いを手段に訴えることができたのに、今年は完全にほって置かれたまま事態が最悪の状況になってしまった市民にとって、昨年以上に不安を抱えた1年となったはずだ。
そして、今週の「ぶんぶくニュースクリップ」でも取り上げたように、人々は「足で投票」し始めている。英国内務省によると、今年に入ってから第3四半期までに424人の香港人が同国に移民申請を提出しているという。このままでは今年の年間申請者数は2017年と18年の申請者の合計を上回るとみられている。
これはひとえにまず英国が今年7月、香港の主権返還以前に香港で生まれた市民を対象に発行したBNO(英国海外住民)パスポートを、その権利を持つ人が再申請すれば取得できるようにしたこと、またその扶養家族に対しても居住権取得を意図した特別ビザを発給し、将来的に約300万人を受け入れる準備を整えたと表明したことに由来する。
特に6月30日に「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)が施行され、その直後に始まった第3四半期(7月-9月)における申請者数は207人と全体の48%を占め、昨年同期比で65%も増大している。実際、わたしの知り合いもすでに3組、今年になって英国に居を移している。
さらに政治庇護申請者も34人と、今年に入ってからの同申請者44人の大多数を占めている。この中には元「香港衆志」の主席だった羅冠聡氏も含まれている。「香港衆志」は羅さんと日本でもよく知られる周庭(アグネス・チョウ)さんや黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さんらが設立した学生政党だったが、国家安全法可決とともに解散し、その後すぐに羅さんは香港を後にしたことが明らかになった。
そしてその周さんと黄さんは今月2日、やはり元「香港衆志」メンバーの林朗彦(アイヴァン・ラム)さんとともに、昨年6月21日の警察本部包囲デモを「扇動した」としてそれぞれ実刑判決を受けている。
日本のメディアはこの有罪判決については伝えているが、この判決が香港社会に与えた打撃と失望についてはほとんど触れていない。わたしが目にした限り、国家安全法施行以降すっかりと息を潜めて発言しないようにしてきた香港人が、「年端もいかない子たちなのに」とこれまでで最も激しい怒りと悲しみを表現した出来事だった。
それを見て改めて、あの「香港衆志」は10代から20代の若者の政党でありながら、香港社会にとっての未来への希望と期待の拠りどころだったのだと痛感した。判決や収監に関するニュースとともにこんな評価ももっと知られてもよいと思う。
●衝撃的な現役議員の「流亡」
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