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【ぶんぶくちゃいな】「不明白播客」2024年、衰退に向かっていく中国社会(前編)

2024年ももう最後の1週間を切った。今年の日本と中国の関係を振り返ってみると、決して良かったとはいえない状況である。

一つはやはり、6月の蘇州日本人学校のスクールバス襲撃事件、そして9月の深セン日本人学校の学童襲撃事件が大きく影響している。そして、どちらでも死者がでており、両事件の犯人は逮捕はされたものの、いったいどんな理由で被害者たちを襲ったのかはまったく明らかにされていない。

さらに靖国神社での放尿事件。犯人のネットインフルエンサーはさっさと帰国してしまい、彼の日本での協力者がこの12月に8月の懲役判決を受けた。とはいえ、インフルエンサー自身も、その後別の脅迫容疑で逮捕されている。

その後、彼がどうなったかの報道はない。だが、靖国神社に対する侮辱事件をほくそ笑んだはずの中国当局もまた、日本からの指名手配者引き渡しには応じないものの、政府の意図とは別に自分勝手にむやみな紛争を引き起こした「問題人物」として、前述の2事件と同じ対応がなされたといえるだろう。

当然、これらの事件の真相は我われ日本人だけではなく、中国人たちの眼の前からも隠されたままだ。中国人たちも、いったい何が起きたのか、まったく知らされないまま、起きた事態に驚くばかりだ。

そして続いたのは、そんな中国人社会を無差別にターゲットにした傷害、殺人事件だった。実際には、蘇州や深センの事件の前にも、なんの個人的関係もない人物を襲う事件はこれまでにも起きていた。だが、蘇州で中国人女性が亡くなったこと、そしてまだ年端もいかない子どもが無差別に深センで殺されたことにショックを受けた人たちにとって、続く無差別襲撃事件は「他人事」ではないという恐怖がもたらされた。

特に11月に広東省珠海で起きた、クルマの突っ込みによる大量殺傷事件はそのピークとなった。当局もさすがにその影響に気づき、不安ムードの一掃をはかり始めた。そして、事件からわずか1ヶ月半後の12月27日に犯人に死刑が言い渡された。実は珠海事件の約1週間後に湖南省の小学校付近でも、無差別に群衆に車が突っ込む事件があり、こちらも事件から1カ月あまりで運転手に執行猶予付きの死刑判決が行われたばかり。

このスピード判決にも驚きだが、それができてしまう中国においてこの速さで死刑という判決が下されたことから、当局がとにかくこういった事件を封じてしまいたいという意図を持っていることが透けて見える。

当局は「個別の事件」と言いながら、これほどまでに慌てる理由は簡単である。それこそ「個別の事件」ではないからだ。彼らは蘇州でも、深センでも「個別の事件」と言い切ることで、事件を矮小化し、犯人らを矮小化し、起きている事態を矮小化しようとしただけだった。

なぜ、それらを矮小化してしまおうとするのか。メディアに圧力をかけ、あるいはその後手にした情報を公表せず、後続報道をさせないことで、人々の意識を事件から遠ざけさせ、記憶から消してしまおうとするのか。

こうした事件を経て、中国で今何が起きているのか。中国人たちは本当に忘れているのか。日本人学校にまつわる事件の後続情報がない中、日本メディアも伝えようとしない、中国国内で広がる「現実」を、ポッドキャスト「不明白播客」からお届けする。

すでに何度も引用してきた通り、聞き手は米紙「ニューヨーク・タイムズ」の中国人記者、袁莉さんである。袁莉さんの正式なご許可を得て、以下のとおり日本語訳をお届けする。

なお、文中、日本人読者にはわかりにくい点を[]で補足、訳注を入れた。


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