【読んでみましたアジア本】ばらばらな人生、その違いを味わうこと:王小ニ・著『上課記 中国離島大学の人生講義』

2000年代の中国はSARSやチベット騒乱や北京オリンピック、そしてウイグル事件などいろいろな事件に遭遇(引き起こ)したが、それでも一歩一歩前進している実感を誰しもが抱いていた10年だった。中国の1990年代は、まず直前の1989年に天安門事件が起きて、世界からボイコットをくらい、最初から決して順調ではない10年間だった。その分、トウ小平が国内経済振興のはっぱをかけたことは国内では高く評価されている。それを引き継いだ21世紀は、過去10年間に希望を見出した人たちがなにがあろうとも「きっとこれから良くなる」「良くしてやる」という意志力にあふれていた時代だったといえる。

政府もまた積極的な経済成長をバックに、天安門事件後に一度はボイコットされた世界貿易機関(WTO)加盟が秒読みになったことで、世界舞台へのデビューに向けた準備を始めた。その一環として、加盟後に怒涛のように押し寄せてくることは間違いない外資系企業対応だ。彼らが求めるはずの世界レベルに少しでも近づく高学歴労働者を育成するという目標が立てられた。

さて、つまり、今回ご紹介する『上課記 中国離島大学の人生講義』が書かれた2005年から2010年年度は、大学入学者の総数が507万人から657万人と推移していた時代。これだけでもほぼ今の福岡県、北海道、兵庫県、千葉県レベルの人口に相当する。1年度の大学入学者数だけでかるーく、日本の1県をカバーしてしまうことにわたしと一緒に驚いていただきたい。

どっからそんなに人が出てくるねん!

14億人という総人口は知っていても、やはりたった1年度の入試合格者だけでこれだけの人数が集まる国なのだ(なお、受験者数は877万人から946万人。途中3年間1000万人を突破している)。その事実を考えるだけで震えてしまう。

じゃあ、その人たちはどこからやってくるのか。どんな高校生活を、中学生活を送ってきたのか。大学に入るということは彼らにとって何を意味するのか。

その様子を天安門世代であり、著名な現代詩人である王小ニ(「ニ」は「女」偏に「尼」)さんが、彼らの学生生活を観察しながらメモにまとめたのが本書である。

●文革、天安門世代の教師と、格差社会に揉まれる学生たち

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