【読んでみましたアジア本】単純思考の時代、だからこそ物事を深く知る努力をしたい/巴代(パタイ)・著/魚住悦子・訳『暗礁』(草風館)
トランプ氏の2期目が始まってからまだ1カ月しか経ってないなんて、まるでウソのようだ。この1カ月のうちに米国は、これまで世界がアメリカに寄せてきたすべての期待を裏切る国になってしまった。その意味において、トランプ氏の「効率」は、その効果といい、スピードといい、確かに前代未聞である。
だが、問題なのは、その「効率」とやらには、そのような決定が下されたことでどんな結果が引き起こされ、どんな影響をもたらし、さらにそれがどんな二次的、三次的な事態を生むかはほぼ考慮されていないことだ。いや、考慮されていないどころか、「知ったこっちゃない」といわんばかりだ。それはまるで眼の前に山と積まれたものをぶった切り、手当たり次第に投げ捨てて、眼の前から消滅させているようなもの。米国の大統領たる人物の、癇癪を起こした赤ん坊のようなその素振りに、世界は震撼している。
中でも気になるのが、ガザとイスラエル、ロシアとウクライナという、長き歴史的因縁を持つ地域間衝突を、その一方だけを支持する形で「終息」させようとしている点だ。「ガザを米国の支配下に置く」とか、ウクライナ不在で一方的に進められる停戦協議とか、よくもまぁ、今この時代にそんなこと考えつくよな……と思わざるを得ない。これまで世界が、それぞれの言い分、それぞれの思いを汲み取って「和平を仲介」しようと努力してきたのは無駄骨だったというのか? まるで子どものおままごとのような判断で、それらの問題を一刀両断し、しかし、その片方がどうみてもバランス的に小さく削られている。
これが世界のスーパーパワーなのか? それがまかり通るなら、世界は今後どうなっていくのか? いったい、その単純思考はいったいどこをどうしたらまかり通るのか。
そんな単純思考は今の時代において、実はあちこちに散らばっている。ネットや人々の往来で次第に世界の複雑さに気づき始め、それが自分の手に負えなくなってしまった結果、単純思考でそれらを一刀両断する。そんな人たちは確実に増えている。いや、必ずしも増えたわけではなく、これまでも一定数そうだったのかもしれないが、そんな人たちの存在が可視化され、誰でもSNSでその単純思考を「増幅」できるようになってしまっただけなのかもしれない。
人間の思考は本来なら、それほど単純ではないはずだ。もちろん、「正解」を求めるには、それなりの知識がなければたどり着けないかもしれないが、知識がなければないなりに、人はいざというときにさまざまな思考を巡らす。
なぜ、世の中はこれほどまでに複雑で、多くの人たちが起きた事態に頭を抱えているのか。その中で勇気を持って自体の改善に取り組もうとしている人たちがいるにもかかわらず、膠着状態に陥り、それが続くのか。
人間はそれでも、知を求め、解を探していくべきではないのだろうか。
今回取り上げる、台湾人先住民族作家、巴代(パタイ)による小説『暗礁』は、まさにそんな人間たちの思考の複雑さ、そしてそれが行き違うことで人間世界が複雑になっていく様子を描いた作品である。
このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。