【ぶんぶくちゃいな】武漢人
中国のSNSで「武漢封城」という文字を見た時、よくやるように自分が見間違えたのだと思い、軽くやり過ごした。指を繰り続けると、またも「封城」の文字が。えええーっとびっくりして、慌ててそこでシェアされた記事を開き、初めて武漢市が本当に「封鎖」を宣言したのだと知った。
こんなとき少しでも中国と付き合いのある人なら、すぐに自分の知り合いに武漢出身者はいなかったっけ?、と振り返るはずだ。わたしには10年以上も前に北京からたびたび武漢へ出張する友人がいた。そのときに初めて武漢が「自動車製造の都」なのだと知った。だが、その彼女はずっと前にその仕事を辞めている。
その他には……いた。昨年からわたしが通うようになったサークルにいる中国人だ。だが、彼女はこの春節は日本での仕事があるので帰らないと言っていた。たしか彼女が里帰りしたのは昨年10月の国慶節休みの時だったはず。でも、彼女のご家族は…?
「そんなに大げさに騒ぐほどのことじゃないわ」、彼女は冷淡にそう言った。その態度は、本当に「そんなたいした騒ぎじゃない」と信じているからなのか、「周囲に騒がれ飽きた」ことに対する条件反射なのか、それとも「おまえらには関係ねーだろ」という突っぱねなのか。
その真相はわからないが、確かに「関係ねーだろ」も含めて、その一言を黙って受け取るしかなかった。だって、心配するにしても彼女が一番心配しているはずなんだし、なんの手伝いもできないわたしたちがあれやこれや言える立場にはなかった。
日本でも観光バスの運転手さんが観光客から感染した例が発表されたり、またチャーター便で武漢から帰国した日本人在住者の中からも自覚症状がないのに感染している人が見つかり、急激に恐怖が社会に広がった。そして地元のドラッグストアでマスク売り場だけ人だかりがしているのを見ているうちに、日本ですらこの不安がり方なのに、実際に最寄りの病院が発病した人たちでいっぱいの中で街に閉じ込められてしまった武漢市の市民はどれほど不安なことだろうと思った。
中国でも「封城」(封鎖)という前代未聞の措置に対する驚きとショックと、そしてもちろん不安を抱え、封鎖された街で暮らす人たちに多くのメディアが聞き取り取材記事が流れ始めた。人びとのバックグラウンドはさまざま。だが、共通しているのはどの人も(たぶん)ネットを使ってのインタビューに対応できるような「都市型」住民であること。
現地の病院では、治療の甲斐なく家族を亡くした人が逆上して医者に暴力を振るってそのマスクや防護服を剥いだ、などという事件も起こっている。いつ家族や自分が見えない菌に襲われるのかという不安や恐怖と隣合わせで過ごしている武漢や湖北省の人たちの声を、そんなメディアの記事から拾ってご紹介したい。
●武漢に閉じ込められた人たち
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