【読んでみました中国本】真面目な新聞記者による真面目な中国観察記:工藤哲「中国人の本音:日本をこう見ている」

昨年から今年にかけて、中国に支局を持つ日本の新聞社・通信社の記者の帰任が続いている。日本の記者の入れ替えは中国の大きなイベントを見据えてスケジュール化される。中国に慣れた記者がイベントの意味を報道するのが理想だから、イベントが終わると同時に交代するのが一つ。もう一つはイベントの1年ほど前に交代する方法。ときにイベントを挟んで新旧特派員が一時的に二人体制でスタンバイすることもある。

わたしが体験したそのうちの一つが2008年のオリンピックだった。そしてもう一つは5年に1度の共産党大会だ。そして今年秋、第19次大会が開かれる。それを前に、わたしが北京にいたとき(〜2014年)にその名を聞いたり、どこかで袖振りあった記者さんたちが昨年あたりから帰国を始めた。最後に残っている知り合いもこの第19次大会が終わったら帰国が決まっているそうだ。

そして日本に帰ってきた記者さんのうち、主要メディアの記者さんは自身の中国見聞や取材録、時には自社のメディア上で発表した記事を加筆して本にまとめる…のが、中国関連本の定説ジャンルだ。地道に現地を取材して記者さんたちが帰国して「次」のステップに挑むとき、まず一旦それをまとめたいと思うのは自然なことだし、時としてその本が彼らにとっての大事な「名刺」になることがある。

昨今では、今回ご紹介する毎日新聞社の工藤哲記者の「中国人の本音:日本をこう見ている」と朝日新聞社の林望記者の「習近平の中国――百年の夢と現実」などが出版されている。

新聞記者の文体はとにかく読みやすく、わかりやすいので、最新の中国事情をざっくり理解したい人にはおすすめだ。ただ、「オレは現地を見てきた」とばかりに肩に力が入りすぎて新聞紙上で開陳してきた中国共産党政治談義を続ける本は苦手なので、今回は面識もある工藤記者の本を取り上げる。

●「中国人の本音」と「共産党の本音」

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