【ぶんぶくちゃいな】「テンセント、お前は間違っている」

最近、日本の経済系ニュースを眺めていると、中国の3大IT企業の「百度 Baidu」、「阿里巴巴 Alibaba」(アリババ)、「騰訊 Tencent」(テンセント)という、いわゆる「BAT」に関する動きが、まだまだ少しずつではあるもの目に入ってくるようになった。

とはいえ、社会一般にはまだ馴染みがあるとはいえないけれども、こうした企業が築き上げてきた「アリペイ」」や「WeChatペイ」などの第3者ペイメントの話、AI事業の話題がニュースワイドショーでも取り上げられ、少しずつ人々の口の端に上ることが1、2年前に比べてずっと増えたと感じている。

ただ、中国では押しも押される大企業になったこの「BAT」だが、じゃあなにがどう違うの?といわれると、そのサービスの恩恵に預かったことのない日本人には区別が難しい。以下、簡単にご紹介すると、こうなる。

「B」の「百度 Baidu」は本拠地を首都、北京に置く。設立当初の主要業務は検索エンジンで、世界的検索エンジンの覇権者グーグルが政治的な理由から中国市場を撤退したこともあって、中国においてほぼ唯一無二といえるほど圧倒的な力を持つ検索エンジンとなった。

しかし、企業からお金をとりつつも「広告」と銘打たずにその企業のサイトを検索結果の上位に持ってきたり、日本のヤフーのようにユーザー同士がお互いの疑問を解決するQ&Aコーナーでも表示された偽情報や広告誘導,誇大広告が間接的な原因と思われる人命事件まで起き、さまざまな批判を浴びてきた。早くから日本にも進出し、スマホ向け日本語IMEが一時「使いやすい」と評判になったが、ユーザーの個人情報が中国に送られていると指摘され、人気を落としてしまった。検索エンジンも最終的に撤退するに至っている(実は日本語IMEの情報収集項目は使用開始時のディスクレイマーで明示されているのだが、ほとんどの人が読んでいなかったというオチがある)。

[*この段落について元は百度の日本語IMEが撤退したように書いていましたが、Twitterで@shao1555さんからご指摘を受け、上記のように訂正しました。ご指摘ありがとうございます。]

最近の百度はこうした経験を持つゆえか、ユーザーを相手にしたパーソナルサービスにはあまり関心がないように感じる。エンジニアから創業したロビン・リー(李彦宏)CEOの関心は今、AI事業に注がれており、中国で初めてAI自動車の路上テストを実施し、すでに量産スケジュールまで明らかにしている。百度を米国のIT業界に照らすと、新エネ自動車「テスラ」の元CEO、イーロン・マスクのように自動車やロケットなど、もっと大きな産業界との連携や技術開発に向かっているようだ。もともと検索ビジネスにおいても、政府にとって「好ましからぬサイト」に対するキーワードフィルター機能を組み込んで検索結果に制限を加えるなど、政府とも近しい関係を築いており、大型産業界への傾斜はそんな政府のバックアップを武器にしたものという見方が一般的だ。

「A」のアリババの本拠地は、創業者のジャック・マー(馬雲)会長の故郷である浙江省杭州市。その事業形態はよくAmazonに例えられ、企業や個人間のオンライン商取引プラットホーム「淘宝 Taobao」、その附帯サービスとして開発されて今では中国のオンライン支払いサービスの雄となった「アリペイ」を中心に、現在はそれらを活用した自動車予約、ケータリング、無人スーパーなどの細々とした生活サービスを含む個人向け消費サービス王国を築いている。

一方でそんな派手な事業の影で、マーはなんども「アリババビジネスの基本は、中小企業を彼らを必要とする取引先と結びつけることだ」と主張してきており、創業当初の企業間取引サービスは今となっては目立たないものの、引き続き運営され続けている。

今や中国の一大経済ジャンルとなった個人消費の牽引者となったタオバオも、中国の片隅で作られていた商品や農作物を中国全土のみならず世界の消費者に向けて販売、発送するという「需要の掘り起こし」を達成するという意味で、地方や中小企業の産業支援の一貫を担っている。

簡単に言えば、ネットの情報発信力を使って「求められるものを求める人に届ける」がアリババが「使命」として掲げるものだ。

しかし、アリババのジャック・マー自身は「技術はわからない」と日頃から公言するビジネスマンだ。もうひとりの「マー」、テンセント(「T」)の創始者であるポニー・マー(馬化騰)はエンジニア出身で、テンセントはBATのうち最も「エンジニア的思考の企業」とみなされている。

テンセントが本拠地を置く、広東省の片隅にある深センは、かつてイギリス植民地だった香港と広東省が接する位置にあり、1970年代に経済特区に指定されて以来、香港を窓口に国外からの資本や技術、情報を引き寄せつつ栄えてきた「商工業の街」だった。

その後、中国全土で海外との直接取り引きが可能になったことで、深センはその役割を終えたとみなされた時期もあった。しかし、世界の下請け工場地帯として培ってきた「モノづくりの力」、そして情報を技術に変えていく方法をよく知る深センに新たな息吹が芽生えた。それがテンセントのようなITとその技術力に裏打ちされた業態である。世界のドローン市場シェア70%を握る「DJI」もやはりそんな深センに本拠地を置く。

[*当初、「DJI」とすべきところを「JDI」(日本ディスプレイ)と表記してました。Twitterユーザーの@shao1555さんのご指摘で気づきました。失礼しました。ご指摘に感謝!]

政治的な影響をどうしても受けやすい北京から遠く離れた地というのも、深センが自由だとみなされる理由の一つである。そして、そんな空間がIT業界のクリエイティブなムードを育んだ。

テンセントの成長は1990年代末期に海外で広く使われていたオンラインチャットツール「ICQ」をコピーした製品から始まった。その後「QQ」と名前を変えたそのサービスは今でも多くの人たちがファイル交換などに使い続ける「中国ネット界基本中の基本サービス」となっている。

●「エンジニア思考」テンセント

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