仕事お役立ちシリーズ:金融AML実践・基礎(1.マネロンの基礎知識)
マネーロンダリングの概要
マネーロンダリングとは:
・犯罪(不法な収益を生み出す犯罪。殺人や著作権法違反も含む)によって得た収益の出どころや真の所有者をわからないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為
・マネーロンダリングはプレイスメント(預け入れ)、レイヤリング(分別)、インテグレーション(統合)の3つの手法に大きく分けて分類される。
プレイスメント:犯罪行為から得られた現金を金融システムや合法的な商業サービスへ物理的に預けれること。
レイヤリング:現金の出どころを複数の金融機関との送金取引を経由することで犯罪行為から分離すること
インテグレーション:犯罪行為から得られた資金と合法的な資金を統合し、所有権に合法的根拠を持たせること
違反について:
・組織的犯罪処罰法、麻薬特例法において罪として規定されている
・マネーロンダリングによって、国際的な(もちろん日本の含む)犯罪組織やテロ組織の威力や権力を拡大させてしまう恐れがある
・特に近年越境取引が増えていることから、国際的な協調が必要(一国のみで規制を強化してもマネロン・資金供与対策において実効性が低くなってしまう)。
・犯罪による収益は捜査当局によって特定し、没収・追徴そのほかの手続きによりはく奪して、犯罪による被害の回復に充てる必要がある(組織的犯罪処罰法にも同様の規定あり)
金融機関における対策について:
・マネーロンダリングの犯罪を防止するために、①マネロンに利用される恐れのある特定事業者の適正な顧客管理、②マネロンの犯罪が行われた場合の追跡可能性の確保のための仕組みづくり、が必要である。
・マネロンの対応を講じない場合、海外規制も域外適用を受ける可能性があり、巨額の制裁金が課される可能性がある。また、FATFにより日本が高リスク国として公表されてしまうと、コルレス契約先として解除されたり、高リスク先として厳格な管理が求められるようになってしまう。
・対策が不十分な場合、犯罪収益移転防止法において、金融庁による報告徴収、立ち入り検査、指導・助言などの監督権限が行使されえる、また義務違反が認められる場合には是正命令が出されることも
・リスクベースアプローチによるマネロン、テロ資金供与リスク管理体制の構築と維持は、当然に実施してくべき事項である。
政府としてのマネロン対策の傾向:
・マネロン対策についての政府間の会合であるFATFで、参加国が遵守すべき国際基準(勧告)を定めており、実施状況の審査を行い、各金融機関における対策における態勢整備に取り組んでいる。2008年にFATFによる第3次対日相互審査、2019年にも第4次対日相互審査を受けていて、不備事項の指摘を受けている。
・FATFによる勧告においてNPO法人もテロリストに利用される恐れがあると言及があった。
・日本には、犯罪収益移転防止法、外為法、テロ資金提供処罰法がある。
・犯罪収益移転防止法は、犯罪収益の移転防止をはかり、テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約の的確な実施を確保することが目的である。取引時確認義務、確認記録の作成・保存義務、疑わしい取引の届け出義務を定めている。
・外為法は、対外取引の正常な発展と日本または国際社会の平穏と安全を維持し、国際収支の均衡と通貨の安定を図ることを目的としている。マネロン防止について、適法性の確認義務、本人確認義務、支払いの報告義務などの義務、また対外取引における資産凍結などの経済制裁を定めている。
・テロ資金提供処罰法は、テロ(①脅迫目的の犯罪行為②特定犯罪行為)のいずれかを実行しようとするものが、その実行のために利用売る目的で資金またはその他利益を提供する行為、または実行しない者が実行する者に対して提供する行為を犯罪として規定している。
FATFについて:
・1989年にある種サミット経済宣言により設立された
・日本もメンバーであり、議長国になったこともある
・2001年の同時多発テロ以降、マネロンに加え、テロ資金供与対策も役割として追加された
・OECD加盟国を中心に38の国・地域と二つの国際機関(EC,GCC)が加盟している
・基本役割は①マネロン・資金供与対策の国際基準の策定と見直し②参加国・地域相互間の遵守状況の監視、③FATF非参加国などへの勧告遵守の推奨、④マネロン・資金供与対策の手口と傾向に関する研究
・総会は通常年3階開催され、相互審査、政策方針の策定等の重要審議と採択が行われている。
・相互審査とは、FATFの各メンバー国・地域に対して、その他のメンバー国により構成される審査団を派遣して、審査対象国におけるマネロン等対策及びテロ資金供与対策の法制・監督・取り締まりタイセイ、マネロン犯罪の検挙状況などさまざまな観点からFATF韓国の遵守状況を審査するもの
・日本は相互審査を1993,1997,2008、2019年に受けている。
<第4次対日相互審査2019>
・2012年に改訂されたFATFに基づいて形式的な法令の整備状況を見る技術的遵守状況の審査に加えて、有効性が審査の対象となった。
・結果としては、日本は重点フォローアップ国に振り分けられた。それによって、日本は審査後の5年間で3回程度の改善報告をすることが求められ、日本は、結果を受けて、警察庁と財務省を議長とするマネロン・テロ資金供与対策政策会議を設置して、行動計画を策定した。なお、各国は通常フォローアップ国、重点フォローアップ国、観察対象国の3つに分類される。
・第4次の結果、第3次の時よりは日本の様々な取り組みで成果が上がっているとされた一方、金融機関・非金融機関への非金融特定事業者に対する監督の強化、特定事業者における取組の高度化など、複数の分野において取り組むべきと評価された。
・技術的遵守状況のうち、NPOの悪用防止についてNC(non-compliant/不履行)の評価を受けた。日本の金融機関における、NPOへのアウトリーチ不足が指摘された。(2023年のフォローアップで、NCからPC(PartiallyCompliant)に評価は格上げになった)
金融庁ガイドラインについて
・金融庁は2017/11の事務年度金融行政方針において、マネロン等対応を掲げて、金融機関向けのガイダンスの公表を行った。そして金融機関におけるマネロンのリスクを分析・評価してモニタリングを行うものとした。
・2018年に金融庁は、「マネロンおよにテロ資金供与対策に関するガイドライン」を策定。
>対象は、犯罪収益移転防止法上の特定事業者のうち、金融庁所管の金融機関(公認会計士と監査法人を除く)である。
>犯罪収益移転防止法上の取引時確認などの措置に加えて、リスクベースアプローチを実施するための措置や態勢構築をミニマムスタンダード(対応が求められる事項)として求めている。また、経営陣のコミットメントの重要性が強調されている
>対応が求められる事項と期待される事項が記載されている。対応が求められる事項に不十分がある場合は、必要に応じて報告徴収や業務改善命令などの行政た王を行うこととされている。
・また、経営管理(三線管理)が重要である
・「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題」おいて、
>様々な商品サービスの特性があることから、複数き見合された場合には資金の流れを追跡することが困難となる可能性があるため、預金取扱金融機関業界のマネロンリスクは高い
>リスクベースアプローチによる継続的な顧客管理が重要。なお、全顧客のリスク評価を実施して、顧客情報が不足している場合や最新情報が必要な場合はアンケートを送付している金融機関が多いが、顧客から返信が得られずに取り組みに遅れが出ている金融機関も多い。
>取引モニタリング・フィルタリングは、リスク低減措置の実効性を確保する手段として取引そのものに着目して、取材状況の分析、不自然な取引や制裁対象取引の検知を通じてリスクを低減させる手法である。疑わしい取引を事後的に検知するものであり、従業員の気づきによるものやシステムによる検知のモノが一般的である。
・2018年のガイドライン公表移行、多くの金融機関において態勢高度化、営業現場も含めた態勢整備に進捗が認められるとされている。
おすすめリンク集:
「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」
「マネー・ローンダリング等対策の取組と課題(2024年6月)」(概要)
犯罪収益移転防止法の概要(令和6年4月1日時点)