誰かの願いが届くとき 78 コラボ
熊飼教授と動画のコラボ収録の日、直輝と沙織は相談してカメラマンを村雨くんに頼んでいた。
それを耳聡い松田が寄ってきて、盛大に文句を言い始める。
「何故にワシじゃいかんの?
今日はお喋り世話好きババちゃんズがおるから、ツインズも安心なんよ?
ワシも是非に行きたいの!
熊とやらを、じっくり拝見してケチ付けて大笑いしたいでな!
のお、、冬よ、、
一緒にどこまでも連れてってくれんかの?」
皆んな松田の言うことを無視した。
それが全く面白くない松田は、更に追いすがった。
「このワシを寄ってたかってハブるとは、、
こげにお前らに尽くしてきた言うに、、
何と冷酷で非情なヤカラがおることよ、、
ワシ、悲しいの。
、、ええんよ、、置いてっても、、
、、化けて出るけ!
ワシ、絶対諦めんけ!!
尾行してでも付いていくけぇ!!!」
性のない駄々を捏ねくり回し始めた松田に困った直輝は、遂に条件を出して連れて行くことにしてしまった。
「、、マッサン、、
連れて行くのはヤブサカでない、、
が、、
教授の家を出るまで、絶対に口を開くな!!
一言も喋るな!
熊飼教授に何を言われてもだ!
それを守れるなら、連れて行ってもいい、、」
直輝の物々しい言い方に、これは絶対に何か楽しいことが待っていると期待に胸を膨らませた松田は
「了解!!
ワシ、ちゃんと言うこと聞くけんね〜〜
沙織ちゃん!
約束守らんかったら、どげにしてもええからの!
光の帆はぁ~♫
風の記憶ぅ抱きしめぇ~~🎵
360どお~♫
全方位でぇ~~見守ってぇ~~♫
ワシはぁ~今ぁ~♫
生まれて来たんよぉ~~♫
ララランラァアアアァ~~♫」
何も知らない松田は、冬の歌のフレーズを歌い、上機嫌で出発した。
例のごとく、熊飼教授の豪邸のゴージャスなリビングに通された皆を、教授はどんな風に楽しもうかと待ち構えていた。
ヘアスタイルから眼鏡からスーツまでこだわりが分かり、教授は飛び切りにキメまくっている。
まるで往年の優雅なハリウッドスターの写真をみているような輝きを放っていた。
今日も教授は絶好調で、お気に入りの沙織をみると他は何も目に入らず、沙織にだけ話しかける。
「やあ!沙織ちゃん。
早速会えて嬉しいよ。
君に会えると思って、こんなにお洒落をしてしまった。
どう?
似合うかな?
ああ、沙織ちゃんのスカーフの色とお揃いだ!
僕のもじっくりと見て!
このネクタイの色、、実に気が合うね。
君は高貴なロイヤルブルーがとても良く似合う。
なかなかこうも似合う人はいないのに。
内側の静かに燃える情熱が、楚々として溢れ出しているのを感じるよ、、
うん、香りも優雅だ。
うっとりとしてこの身を委ねたくなる、、
もう3度目だから、これは間違いなく運命だ。
次会う時はプロポーズするから、、」
自分の愛する妻に当たり前のように近づき、舐め回すように眺め、絡みとるように話す、気色の悪い、変に艶々しく堂々とした渋めの色男に遭遇した松田は、すっかり頭に血が昇り、今しがたの約束を忘れて大声で叫ぼうとした。
だが予防線を張っていた直輝と冬と村雨くんに、しっかりと身体と口を抑えられてジタバタするだけだった。
「、、フンっ!!
、、フンガ!!
、、おいコラ!
離さんかい!!」
鼻息の荒い松田の口を何とか押さえている直輝は、今激しく後悔していた。
「マッサン、落ち着け!!
これは大事な仕事だぞ!
バッシーだって、仕事だと理解して対応してるんだからな!!
熊飼教授は言っとくけど普通の人ではないから、関わり合うな!
お前、今暴れるんなら直ぐに連れ出すからな!」
それを聞いた松田は少しおとなしくなった。
部屋の隅で何かがジタバタしているのに気づいた教授は
「おや?
何だい?
今日の外野は躾がなってないな、、
まあいい。
さあ、冬、こちらに来なさい。
どうしたの?
せっかくの髪と服装が乱れてるじゃない。
ほら、良くなった、、いい感じ。
さっさと終わらせて、今日こそは沙織ちゃんと楽しく食事をするんだからね!
いいね?沙織ちゃん。
家にシェフを呼んでいるから、皆んなで食べていきなさい」
嫉妬と怒りで激しく震える松田にカメラを任せられる訳もなく、村雨くんが冷や汗をかきながらしっかりとカメラを回した。