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誰かの願いが届くとき 2 境界線

 初めての深夜高速バスの旅は、外の景色も遮断されて何も見えず、ゴロゴロと荷物みたいに運ばれているみたいだった。

外の様子が気になって、バスの休憩のたびサービスエリアに降りては、その土地の空気を感じてみる。

真夜中でも、パラパラと移動している人たちはいて、まるで深夜の境界線を越えて旅立って行く幻霊のように思えて、自分もその中のひとつの存在だと気づく。

やがて朝を迎え、バスはちゃんと帆乃を目的地まで丁寧に運んでくれた。

バスの中であまり眠れなかった帆乃は、ホテルのロビーにあるソファに気持ちよく座り、これから会うwho youについて空想を巡らせていた。

 (どんな人なんだろ?

 優しい人だといいな。

 帆乃が平凡過ぎて、期待ハズレでガッカリしないかな、、

 ダメダメ!

大丈夫。

私は私! 

私にはパパと皆んなが付いてる!

 誰が何て言ってもどうってことないよ!)

考え過ぎて自分にダメ出しする帆乃を、守り神になった父と空想の優しい仲間たちとが共にいてくれる。


 連絡をくれた大林さんは、who youのことを真面目で素直な優しい人だと言っていた。

 少し天然なところは有りますが、、

 と付け加えていたが、おかしな人ではないようだ。

 そんな事を考えていると、ロビーの暖かさと寝不足で眠くなり、いつの間にかソファに座ったまま眠ってしまう。


 2時間くらいして、連れの男女がロビーに入って来た。

 女性は30代くらいのエレガントでキチンとした身なりの美人、男性はグレーのロングコートが似合う長身で、黒縁メガネをかけ、深めに帽子を被っている。

女性は待ち合わせのラウンジへそのまま行こうとしたが、男性はロビーのソファで眠っている帆乃に気がついた。

「、、、、、」

一瞬、息を止めた男性は立ちつくし、それから帆乃の方へゆっくりと進んで行く。

そして眠っている帆乃の前に跪き、少しでも彼女を見逃すまいと観察し始めた。

ショートのサラリとした黒い髪が、傾いた頭に沿って顔を半分隠している。

ピッタリと瞑った目にまつ毛、小さな鼻にポテっとした濃いピンクのくちびる、白くふんわりした頬、喉元まで見える首筋、、

あまりに真剣に見つめる男性を戒めるため、女性が声をかけた。

「失礼ですから、やめてください!」

その言葉で我に返った男性は、帆乃の耳元近くで優しくゆっくり囁いた。

「、、帆乃、、

帆乃ちゃん」

帆乃は誰かが心地よく、自分の名前を呼ぶのを聴いて目を開いた。

顔前に物凄くキラキラした瞳の顔が、帆乃を微笑んで見つめている。

(何??近くない??)

帆乃は驚いて言った。

「、、、誰?」

男性はもっとキラキラしながら笑って、自分の名前を名乗った。

「冬だよ、、」

帆乃が黙ってポカンとしているのを見て、困ったように続ける。

「、、小柳帆乃さん、ですね?」

帆乃は、この男性がwho youだと理解して、慌てて立ちあがろうとし転けそうになったのを、彼はしっかりと抱えた。

who youの胸に頬が当たり、帆乃の心臓はドキドキ暴走し始める。

(いったい何が起こってるの?

こんなことってあるの?)

帆乃は訳がわからないうちに、いつの間にか大きく何かの境界線を超えていた。

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