誰かの願いが届くとき 42 昔と今
「帆乃ちゃん、どこに連れて行こうか?
何が要る~?」
また初めて会う女性に帆乃は緊張した。
「千里さんって呼んでも良いですか?
すみません、わざわざお付き合いしてもらっちゃって、、」
遠慮する帆乃に千里は大らかに言った。
「あ~、なんて呼んでも自由よ!
気楽にしよう!
昨日困ったんじゃない?
冬の家って何も無いじゃろ」
あははと陽気に笑う千里を見て、帆乃は少しづつ緊張を解いていく。
「あそこに本当に住んでるのか、わからなかったです。
あの、舞島くんと私が一緒に住むのっておかしくないですか?
それと舞島くんって、いつもあんな感じなの?」
千里はザックバランに答えた。
「別に、私たちは何も気にしないよ!
大人なんだし、全然。
冬ねー、あんなに誰かを心配するなんて、見たことないよ。
いつもは物静かで、話しかけられたらそれなりに愛想するけど。
5年くらい見てるけど、女の子とくっ付いてるのなんて見たことないから、ホント面白いわー!」
帆乃は戸惑って言う。
「そうなの?
昔の舞島くんとは話したことなくて、昨日会って話したのが初めてなんです。
私、お喋りじゃないし、舞島くんも騒いでるの見たことないし。
だから、とっても驚いちゃって。
でも、知らない間に彼のペースにハマってこんなことに、、」
ひとりになって考える余裕が出た帆乃を見て、冬のためにこれはマズイと千里は話を変えた。
「とりあえず、こっちで暫く暮らすんだから、居心地良くしなくちゃ始まらないね!
さあ、どんどん行こ!行こー!」
そう言って店を周り、あたふたする帆乃を引きずり回しながら、服や日用品をどんどん買わせていった。
冬が歌とダンスのトレーニングを終えて家に帰ってのは夜の10時を過ぎていた。
帆乃が待っていると思い、ボイトレの先生に教えてもらった、チョコレートの美味しいお店でプレゼントを買い、ウキウキしながら玄関を開けると、帆乃のスニーカーはなく部屋はシンと静まり返っている。
冬はサッと身を翻して、マンションの目の前にある直輝の家に飛び込んだ。
「帆乃!帆乃ちゃん!?」
呼びながらリビングにズカズカ入っていくと、帆乃はソファに寝転んでノートを胸に広げたまま眠っていた。
安心した冬は、ソファの前にヘタっと座り込む。
そんな冬に千里は小言を言った。
「ちょっと!うるさいよ!
帆乃、今日は知らない人に沢山会ったから疲れたって寝ちゃったのよ。
晩御飯は冬と一緒に食べるって、夕方にオヤツ食べてたわ。
それと、アンタ鍵を渡してないでしょう!
合鍵、直輝が持ってるから、マンション入れるわけないじゃん。
ちゃんとしなさいよ!冬。
アンタがお世話するって帆乃のお母さんに言ったんでしょ。
ホントにもう!」
冬はガックリと反省した。
「ごめん、帆乃。
帆乃がいなくてびっくりしたんだ、、」
千里は続ける。
「帆乃、冬と一緒に暮らしていいのかって心配してたよ。
ちゃんと納得してないんじゃないの?
アンタの思いばっか押し付けて、不安にさせていいの?
こんな世間慣れしてない素直な子って珍しいよ。
大事なのはわかるけど、昨日お互いに初めて話した相手と一緒にいるって、相当変な話なのよ。
その辺り、キチンと納得させてあげなさいね!」
冬は帆乃を見ながら黙り込んでしまった。
その会話の最後の方が聞こえて、帆乃は目覚めて起き上がった。
「舞島くん、おかえり、、
もう遅いの?
、、そうだ。
プリンちゃん、見せてもらったよ。
とっても可愛いね!」
冬は嬉しそうに微笑んで、帆乃にただいま、と言った。
その時、直輝がプリンちゃんを抱いて2階から降りて来た。
「お、冬、帰ったか。
帆乃ちゃんに合鍵渡しといたからな。
早く飯食べろ、二人ともまだだろう。
今日はオレの特製海老ニラ餃子だ!うまいぞ~!」
帆乃と冬は並んで一緒に美味しくご飯をご馳走になった。
食事を終えると冬が一緒に帰るように帆乃を促す。
「帆乃ちゃんに、チョコレート買って来たんだ。
帰って一緒に食べよう!」
大好物のチョコで釣って帰ろうとする冬に帆乃は抵抗を始めた。
「舞島くん、やっぱり一緒には暮らせない。
直輝さんと千里さんが良ければ、こちらでお世話になるよ。
あの、、舞島くんのいた部屋が空いてたら使わせてもらえませんか?」
帆乃の発言に冬はパニックになりかかった。