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誰かの願いが届くとき 38 ショパンの夢

冬がオーケストラとショパンのピアノコンチェルトをバンパイアに仮装して演奏するという案を、無邪気に帆乃は初っ端から出して来た。

皆はこのアイデアに驚愕する。

直輝は唸った。

「、、小柳さん、いや、帆乃ちゃんと呼ばせてもらうよ。

帆乃ちゃん、凄い発想するね、、

何で今まで思いつかなかったんだろうか、、

こんなにピアノが弾けて、しかもショパン好きは多いというのに、、

who youのファン層の年齢高めなところに響きそうだな。

確かに、バンパイアのビジュアルは妖しさ満載でインパクトある。

この曲何分だ?

ワンステージ構成するのに足りないんじゃないか。

絶対、どこかデカいホールか会場で演ろう!

who youの再始動と映画の宣伝に持って来いじゃないか!」


沙織が直ぐに答える。

「大体40分弱でしょうか。

2部構成で、後半はwho youの新しい曲か、せっかくなのでオーケストラと共演して頂いても良いですね。

まずは灰谷さんにアポイントしなくてはいけませんね」


YouTubeを見ていた松田が

「ピアノ、いつまで経っても始まらんの。

何とも間があるんじゃが、ええんかの?

おおおっ!!えげつない動きでピアノが始まったで!

何なんじゃ!この茶髪ヒゲメガネ!」


聞いていた冬も頷く。

「この時のブーニンさんはとにかく全ての動きが美しく、自由と瑞々しいパワーに溢れていて、伝播力が凄まじい。

音以上の世界観を強烈に感じさせる魅力がある。

、、というか、オレはこれを求められてるの?

もしかして、、」


おにぎりを食べ終えた帆乃が普通に言う。

「これ以上だよ。

今の舞島くんなら、もっと自分らしいショパンと映画の世界感を演じられるよね?」


帆乃が何かとても恐ろしいことを言ったように、冬は呆然とした。

さすがにショパンに精通した代表的なプロの演奏家を超えて行けとは無理がありすぎて、頭がパニックになる。


「、、ちょっと、お母さんに相談してもいいかな、、」

冬はそう言って、ピアニストの母に電話をかけた。


「お母さん、僕はショパンのコンチェルトを弾いても良いと思う?」


冬の母は直ぐに反応して言った。

「素敵じゃない!!

やっと冬が私の願いを叶えてくれるのね!

絶対にやりなさい、こんなチャンス、誰にでもないのよ!

でも、そうねー、最低でも半年は準備して体にしっかりと馴染ませなさい!

寝起きでも、すぐに全力疾走出来るくらいに、、

東京の友人に頼むから直ぐにレッスン付けてもらいなさい!

どこのオケと演るの?

えっ! 決まってないけど灰谷さんですって!

いいわ。私の知り合いに口添えして頂くから、お願いしてみなさい。

あなたwho youをやって本当に良かったわね!

あなたのファンに来て頂いたら、客席は多分埋まるでしょう。

誰も冬に完璧なショパンの演奏なんて期待してないだろうから、あなたなりの解釈で明確な意図を持って、死ぬ気で堂々とおやりなさい!

ところで、誰がこんな企画をされたの?」

母がひとしきり語り尽くして質問した。


「映画の脚本書いた帆乃ちゃん、小柳帆乃さんだよ」

冬の言った名前を聞いて母は何かを思い出した。


「、、帆乃さんって、あの、鳥取の小柳さんのお嬢さん?

まぁ、そうなの。

お元気なのね、良かったわ。

あなたも会えて嬉しいでしょう、冬。

とにかく、直ぐにレッスンとオケの件は連絡しますから。

それじゃ、しっかりおやりなさい!」


また後で、と母は電話を切った。


帆乃は冬の母が自分の名前を覚えていたのに驚いた。

やはり父の事件の記憶は身近で知ってる人は忘れないものなのかと思い、軽くショックを受けた。


そんな帆乃の動揺を感じ取った冬は

「大丈夫!

オレが精一杯やって、どんなだったか帆乃ちゃんが見届けてくれるなら、何でもする。

だから、オレをしっかり見てて」

帆乃は冬の真っ直ぐな瞳を見て、再び映画のことを考え始めた。

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