見出し画像

誰かの願いが届くとき 44 キャッチコピー

また昨日と同じく何だかよくわからない内に、冬に手を引かれて家に連れて行かれていると帆乃は思った。

一緒に暮らすのは映画のためだ。

それなら、どうすれば帆乃と冬の映画は最高だと思える作品に出来るか?


黙りこんで真剣に考えている帆乃を、冬は心配げに見た。

こういう時は何か嫌な予感がする。

部屋のリビングに戻ると直ぐに、帆乃は言った。


「この映画の完成形を考えたの。

私が楽しんでやるのはもちろんだけど、舞島くんが主演だから、やっぱりそれが一番の魅力だと思う。

この映画で、舞島冬の魅力を余すことなく全て出し切るようにする!

舞島くんのファンや見てくれた人達に喜んでもらえるようにしようと思う。

そのために、私に出来ることは何でもする!

だから、舞島くんをよーく観察するのに一緒に暮らすのは大事だと思うから、そうするから。

それなら納得できる!」

帆乃の決心を聞いて冬は一瞬喜んだが、観察という言葉を聞いてすっかり参った。

あくまで映画のために暮らすのであって、個人的には距離を取り続けること。

プライベートな関係ではないという宣言を感じ取った。

そうはさせないと冬は言った。


「帆乃ちゃん、オレが何でこんなに君と一緒にいたいのか話すよ。

オレがwho youを始めたのは、帆乃ちゃんに見つけてもらうため、、見つけるためだった。

中学で帆乃ちゃんに会ってからずっと君を見てた。

帆乃がいなくなって、初めて自分の気持ちに気がついた。

それからずっと帆乃に会いたかった。

だから、、」


君が大好きだと伝えたい。

愛してる、、

何故だかわからないけど、理由も意味もわからず、全身で感じている。


冬が話せていなかった大切な部分を言う前に、帆乃は驚いて遮った。


「ちょっと待って!

私には舞島くんは昨日までいなかった人だよ。

舞島くんなしで、何も問題なかったし、何にも舞島くんのこと知らないし。

映画以外のことで勇気は持てないし、どうしたらいいかわからないよ。

こんな私をそんな風に思ってくれて、申し訳ないけど。

舞島くん、昔の私は知ってたかもしれないけど、今の私のこと知らないでしょ。

、、幻想を見てるだけかもしれないよ」


綺麗さっぱり振られた冬だったが、こんな事では負けなかった。

でも今、自分の思いを貫いても帆乃を困らすだけだと理解した。


それでも言わずにいられない。


「そんなことない、昔も今も帆乃の本質は何も変わらない、、

オレにはわかる、ずっと君だけを見てたから、、

帆乃にいて欲しいからこれ以上は駄々こねないけど、映画が完成したらもう一度言ってもいい?」


これが現状の最善策かと冬は思った。

帆乃にストレスを与えず、一緒に気持ちよく映画を創りたい、それを優先した。

帆乃は、冬の思い込みが行き切るのを抑えるように、ゆっくりと言い聞かせた。


「舞島くんはとっても優しくて魅力的だから、私一緒にいてドキドキするし、安心もするし、いい人だってわかるよ。

でも、映画のことがなかったら絶対に出会わないくらい、私と違う遠い世界の人だから何も考えられないよ。

こんなに親切にしてくれて、とっても感謝してる。

だから、そばにいて舞島くんの素敵なとこや、面白いとこいっぱい映画に出せるようやってみるからね」


気持ちが盛り上がっている冬とは正反対に、帆乃はとても冷静に冬を見つめて言った。

真面目にダメ押しで振られた冬は、嬉しいのか悲しいのかわからない顔をした。


大好きな帆乃を目の前にして、我を忘れるほどの思いを伝えることが出来ないなんて、、


一方で、何て自分は欲深い偽善的な男だろうと呆れた。


そうと決まった帆乃は元気いっぱいに言う。


「この映画のキャッチコピーは、

あなたの願いはwho youが絶対に届ける!

にするねー!

うわぁ、、そのまんまだけど、ま、いっか。

ちゃんとしたのもそのうち考えなきゃ。

それと舞島くんのために脚本変えなきゃなぁ。

松田さんと村雨くんに絵コンテも描かなきゃ!

あ、舞島くんテレビ買ってよ!

who youのチャンネル、良く見るから。

いいよね?」


「、、ブルーレイも出してるから、よろしくね、、」


帆乃がどれだけ自分に興味無かったのか思い知らされた哀れな冬だった。

いいなと思ったら応援しよう!