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誰かの願いが届くとき 80 残酷で無慈悲なたんぽぽ好きのマニアックな愛



映画の公開日を迎える数日前、実家に篭っている帆乃に、幼馴染の茜が興奮しながら連絡をして来た。


「とうとうこの日が来るね!

私も舞台挨拶に呼ばれたんだけど、何着て出ようか悩んでる。

帆乃は? 

どうするの?」


帆乃はここでもまたかと説明するのが面倒になって、しばらく何も言わずに黙っていた。


「、、もしもし? 

聞こえてる?

何黙ってんの。

もしかして出ないつもり?

信じられない!!

帆乃、あんなに頑張って創った映画でしょう!?

こんなおめでたいことないのに!

舞島くんも、皆んなもいるから大丈夫だよ!

この前のスキャンダルは、熊飼教授の投稿がバズって捏造記事だったって世間にバレたから、あの週刊誌、もの凄く叩かれてた。

私達のこと、ズブの素人集団呼ばわりして。

3回死んで来いっての!

ざまあ、、、

ヤダ、私ったら!

でも、その効果で一気に注目集めたから、ヤラセじゃないかって噂されるほどだったよ。

ねぇ帆乃、私と一緒に思いっきり楽しんで舞台に立とうよ!」


それを聞いて、帆乃は少しホッとした。


「ごめんね、茜ちゃん。

もう映画創りは終わったから、冬とも終わったの。

あとは、他の優秀な人たちに任すよ。

だから、私は何にも関係ないから」


一体全体この後に及んで、この子は何をやらかしたのかと呆れた茜は


「何言ってんの、、帆乃、、

あの舞島くんを振ったの?

、、そんな事出来るの帆乃だけだよ、、

ライバルがいないからって、舞島くんを弄んでるの?」


そんなわけ無いと帆乃は返す。


「ライバルなら元からウジャウジャいるよう、、

老若男女いーっぱい。

皆んな、帆乃なんかより目をハートにして冬をじーっと見てるよ」


帆乃の軽口にも全く動じない茜は


「冗談言ってる場合?

舞島くん、なんて可哀想、、

あんなに帆乃のことをずーっと思って来たのに、、

熊飼教授に散々イジられて、もう伝説になってるよ。

舞島冬の不治の盲目の恋の病って。

こんなの他人に知られたら恥ずかしくて生きていけないけど、最初から最後まで舞島くんはしっかり耐えてて、本当に立派だった、、」


その動画を帆乃は見ていなかったけど、直輝や沙織たちがしっかりと冬を守ったんだなと思った。

それからこの話が世間に広まったことに恥ずかしくなる。


「、、冬ったら、、

また何か演技したんだよ、それ、、

茜ちゃん、考えてみて?

どう考えてもおかしな話なの!

冬とはお互い生息地が全く違う場所なの。

それに何で帆乃みたいな地味な普通の雑種の猫を、冬があんなに追いかけ回すのか。

冬は本当におかしくなってるから、いい加減目を覚まさないとダメなの!

もっと自分にふさわしいキラキラピカピカのロシアンブルーみたいな人を見つけたら、目が覚めるから!

以上!おしまい!!」


キッパリとした帆乃に、茜はこちらもつける薬はないと思ったが、大切な親友の目を覚まさせるために、もう一度頑張った。


「皆んなが皆んな、目立つ場所でキラキラ咲く薔薇が好きな訳じゃないの!

もちろん、綺麗ではあるよ。

でもね、何でこんな所にって場所で、懸命にへばりついて健気に咲いてる普通のたんぽぽが、たまらなく愛しくて大好きってマニアックな人もちゃんといるの!

間違いなく舞島くんは、たんぽぽ好きのマニアックなの!

あのwho youが帆乃を死ぬほど好きなのよ!

愛されちゃって、必要とされてるの!

私だってそうだよ!

帆乃はそれだけのパワーと魅力を持ってるの!


いい加減、その自覚と自信を持ちなさい!

自分の価値をちゃんと認めて、舞島くんを信じなさい!

そこから帆乃は始めないと、いつまでも成長できないよ。

こんなに一途に好きになってくれて、しかも優しくてイケメンで才能あって気が合う人って、ウジャウジャいるわけないんだから。

帆乃だって、舞島くんのこと好きなんでしょ? 

本当は後悔してるんでしょ?

帆乃のやる事と言ったら、舞島くんにとって相当残酷なんだから。

無邪気なたんぽぽのフリした、トゲトゲのあるアザミだよ!」


一気に波に乗って、言いたいことを言えた茜はスッキリした。

反対に帆乃は、何で今更こんなにぶり返されるのかと茜に腹が立ったが、自分にも凝り固まった考えがあったことに気がついた。

黙っている帆乃に怒りを感じた茜は少し冷静になって、今度は明るく茶化し始めた。


「ねぇ、帆乃、、

これ、もしかしてワザとやってる?

そういう2人のプレイなの?

それなら、もう何も言うことない。

好きなだけ、ふたりで遊ぶといいよ。

ちょっと!

これ映画にしなよ!!

創ったのより、よーっぽど面白いから!!」


とっても失礼なことを茜はいけしゃあしゃあと言う。

でもそれを聞いた帆乃は可笑しくなって、どこかで聞いた話を思い出し楽しく返した。


「、、こんな変なふたりを映画にしたら、お客さん退屈して途中で居眠り始めるか、怒って帰っちゃうよ、、」


茜と帆乃は笑って、それから電話を切った。



お正月もとうに過ぎた頃、いつまでも家にいる帆乃に、おばあちゃんとおじいちゃんは不思議に思って心配をして聞いて来たので、帆乃はまた適当に答えた。


「冬は夏まで世界中を旅してコンサートするの。

帆乃はひとりで待つのイヤだから。

ここにいたらダメなの?」


ふたりは全くそんなことは無いと言い、冬のことをえらく感心していた。

そうこうしていると、遂におじいちゃんが冬の公式アカウントをフォローした。

頼んでもないのに、帆乃に動向を逐一報告し始め出した。


「冬くん、今週末は台湾じゃと。

暖ったかそうでええのう、、

帆乃ちゃんは遊びに行かんのか?

小籠包食べとるぞ!

美味しそうじゃな」


嬉しそうに報告するおじいちゃんや、それを楽しく聞いているおばあちゃんに、帆乃はとんでもなく罪悪感を感じ始めていた。

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