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誰かの願いが届くとき 81 誰かの願いが届くとき

12月後半、冬と帆乃が企画、脚本、監督 演出、主演、音楽を担当した映画

誰かの願いが届くとき
love entity

が全国で劇場公開された。


熊飼教授とのコラボ動画は、結局、松田が潔く教授に土下座しに行き、許可を得て映画公開の前にアップされた。

謝りに行った松田は、意外なことに教授に気に入られて帰ってきた。

松田のどこが気に入ったのかは分からないが、熊飼教授も充分に自分の発言は我を忘れていて、くだらない見栄を張っていて楽しくなかった。

但し、松田という生物を相手に、ストレートにやり合えたのは愉快な体験だった。


「ワシ、言うた事は間違っとらんが、態度はごっつう悪かった、反省しとるって言うたら、熊さん、面白そうに笑っとったんよ!

ワシ、可哀想なゴキブリのコバンザメじゃけ、沙織ちゃんとツインズを今さら取りあげられたら、二度とまともに生きていけん言うたら、熊さん、それはそれは同情してくれての。

仕方ないが、沙織ちゃんをたまには貸してくれ言うての。

ワシ、ツインズも一緒にどうじゃ?言うたら、ほんに喜んでな。

紫ちゃんと息吹くんの動画見せちゃったら、えらい可愛いいええ子らじゃ言うて、目を細めて褒めてくれるんよお。

いぶくんの指の長さはピアノ弾きにピッタリじゃ言うての。

ゆかちゃんはベッピンさんじゃけ踊らんといかん言うて、ふたりにピアノとバレエと英語習わしちゃる言うて、まこと、ええ人なんよぉ。

ワシもお返しに、熊さん、カッコ良うに撮っちゃるけ、任せんちゃい言うたん。

熊さん、あげに喋らんかったら、もっともっとええ人なんじゃがの」


泥仕合いを繰り広げた2人だったが、何か奇妙な絆が芽生えたようだった。

その結果コラボ動画は、ファンや興味本意の冷やかしの目にとまり再生回数を伸ばして、who youは本名の舞島冬と経歴を公表し、帆乃との経緯を洗いざらい教授に聞き出され、隠すものは何一つ無くなった。

冬の純情過ぎる健気で執念深い物語は、皆んなの同情か賞賛か何だか分からないモノが入り混じり、いつの間にか結果オーライとなった。

初日の舞台挨拶に、帆乃の姿は無かった。

沙織が司会をし、松田と直輝がメインでトークを張り、千里や茜、他出演者がオフトークで和気あいあいと場を盛り上げ、最後に無事に公開を迎えたこと、協力してくれた多くの人たち、そして観にきてくれたお客さん達に感謝して、冬はエンディング曲の『ファニー』をアコースティックギターで歌った。

茜が帰り際に冬に話しかけた。


「舞島くん、大丈夫?

おととい、帆乃と話したよ、私。

ちょっと帆乃にお説教したら、ムッてしてた。

けど、笑ってたよ、あの子。

大丈夫だよ、舞島くん!

帆乃に合う人は冬しかいるわけないでしょう?

あんな我が道を行く頑固なたんぽぽ。

そのうち寂しくなって、舞島くんが恋しくて飛んで帰って来るから!

その時はよろしくね!」

そう言って冬を慰め、帰って行った。


帆乃は笑っていた、、

冬は帆乃のふんわりした笑顔を思い出し、恋しくて悲しくなった。

自分の知っている帆乃はどんどん遠ざかって行く気がしていたけど、彼女はちゃんと笑って生きている、、

そう思うと少し安心し、自分もまた心から笑える日が来るかもと思った。

帆乃の全てが恋しくて、心の中でそっとそっと大切に抱きしめ、また1から彼女の幸せと笑顔を願っていた。



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