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誰かの願いが届くとき 40 ハンターと獲物
こうして映画のプロジェクトはいつの間にか、帆乃を頂点にして進められることになった。
帆乃の望みが冬のやりたいことだから。
そこにいた帆乃を除く全員はそれがわかった。
帆乃は自分の言ったことを何でも全力で叶えようとする人達に囲まれて、まるで皆んなが魔法使いのように思える。
嬉しいのは勿論だが、冷静に考えると何だか信じられなくて、反動で怖くなってくる。
でも隣には冬がいる。
帆乃を全力で支え守ってくれて、したい事を自由に出来て、思うままに振る舞える場所に連れて来てくれた。
各部署がスケジュールを割り出し、忙しく交渉や準備、計画をどんどん進めていくのが目に見えるようにわかる。
中でも一番のキーは冬で、冬ありきのプロジェクトだった。
帆乃は、どうすれば冬が一番輝けるか考えた。
何と言ってもその魅力は、飛び抜けた見た目と多彩な才能、秘められながらも漏れ出しているエネルギーとのギャップだった。
美しい佇まいでのんびりして、何を考えているのかわからないようなのに、演じるとなると、何かが取り憑くように怖いくらい何にでも一瞬でガラリと雰囲気を変える。
終えると、何もなかったかのように飄々としているのは、特別に意図してしているとは思えなかった。
それに自分もまんまと巻き込まれている気がする。
改めて、帆乃は冬をじっくりと観察する。
そんな帆乃に気がついた松田はこそっと言った。
「帆乃ちゃんよ、冬から逃げ出すんなら今のウチじゃぞ。
コイツは天然の恐ろしい男じゃけ。
相手の知らぬ間に、自分の思い通りにする悪いヤツじゃからの」
意味がさっぱりわからない帆乃は冬に聞いた。
「松田さんは何でそんなこと言うの?
舞島くんは何か秘密があるの?」
ピアノや他のレッスン、レコーディングのタイムスケジュールを立てていた冬は、ギクリとして帆乃を見た。
冬には帆乃にまだ言えてないことが山のようにある気がする。
「、、松田さんの言うことは全然気にしなくていいよ。
それより、帆乃ちゃんのお母さんにご挨拶してないな。
映画が完成するまで東京にいるでしょう?
連絡してもいいかな?
あと、暮らすのに必要なものとか、直輝さんの奥さんの千里さんに頼もうと思うから、相談してくれたらいいよ」
帆乃は一度、家に帰ろうかと思っていたので、どうしようか母に連絡した。
「あのね、ママ、私こっちで映画作りすることになったの。
舞島くんが挨拶したいって。
いい?」
そう言って冬に代わった。
「こんにちは、舞島冬です。
一度、ご挨拶に伺うつもりなんですが、とりあえずお電話だけでもと思いまして。
僕のこと、覚えてますか?」
帆乃の母はびっくりして声が裏返った。
「舞島くん!?
立派になられたのね!
ご両親はお元気ですか?
そうなの、良かったわ。
お母様も相変わらずお美しいんでしょうね!
拝見したことがあるんですよ。
本当に、冬くんも可愛らしくて良く覚えてます」
冬は愛想よく元気に答えた。
「ありがとうございます。
実は、このたび帆乃ちゃんと映画を作ることになって。
それで、帆乃ちゃんを僕がお預かりしよう思うんですが、よろしいでしょうか?」
聞いていた帆乃はえっ?驚き、同時にコッソリ聞いていた皆も作業の手が止まり、大きく耳を傾けた。
「まぁ!いいんですか?
あの子、家のことも自分のことも、驚くほどひとりで何にも出来ないんですよ。
ずっと、祖父母と私が甘やかして来たもんで、お恥ずかしいんですが。
それに怖がりだし、他所で夜もどうやって一人で寝るのか、、
おまけに寝起きと言ったら、、」
「ママ!ちょっと、、やめて、、」
帆乃は恥ずかしくて真っ赤になる。
それは却って好都合と思った冬は、笑って自信たっぷりに言った。
「大丈夫です。
僕が側にいて、お世話しますから。
帆乃ちゃんに苦労させません!
それに近くに頼りになる親代わりのご夫婦がいるので、安心してください。
それでは、近いうちにまた、、」
直輝は、親代わりの夫婦って自分達のことか!?と少し驚き、そして子供が2人に増えた!?と危ぶみながらも喜んだ。
帆乃の母は、必要なものは宅急便で送るからお金をかけてわざわざ帰らなくてもいいし、いるものはそれで買いなさいと言って電話を切った。
聞いていた松田は何か言いたそうな顔をしたが、沙織に睨まれて言葉をなんとか飲み込んだ。
心では、やっぱ冬のヤツ、映画をエサにして狙った獲物を絶対に逃さない、恐ろしいヤツじゃと思っていた。