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誰かの願いが届くとき 25 無意識の涙

バッシーがタコ焼きを買って、冬の病室まで戻ってきたので松田は、んじゃ、またと冬にウインクして出て行った。

冬はなるべくリラックスして話を持って行こうと、バッシーに話しかけた。

「バッシーおかえり。

わざわざありがとう」

「さあ、冷めないうちにどうぞ」

バッシーはそう言って、冬のベッドのテーブルにタコ焼きとお茶を用意すると、ソースの良い香りが漂った。

「全部は食べれないから、良かったら半分食べてくれないかな?」

冬は蓋に自分の分を取り、半分をバッシーに渡した。

「では、頂きます」

バッシーは素直に受け取り、冬とモグモグ食べ始めた。

「松田さんて、プライベートではバッシーのこと沙織ちゃんって呼ぶんだね。

昔から松田さんとは仲良いの?」

バッシーは敬遠しながら、慎重に答える。

「普通です。

たまにしか会うことはなかったですよ。

私がこの事務所にくるまでは。

何か言ってても、冬は気にしないでください。

いつもの戯言ですから」

冬はここぞとばかりに切り出した。

「いつも松田さんは冗談ばかりだけど、周りをよく観察してて凄いよね。

やっぱり、映像カメラマンだけあって、観察眼が鋭いのかな」

「それが仕事ですから」

つれなくバッシーは返すが、負けじと冬も頑張った。

「松田さんはああ見えて、凄く優しいよね。

軽薄さが服着て歩いてるみたいだけど、ちゃんとわきまえてるし」

「そんなことないですよ。

言いたい放題で、こちらが恥ずかしくなります。

、、、冬!

回りくどく気持ち悪いですから、ハッキリ言いたいこと言ってください!」

堪らずバッシーが訴えると、冬はやっと本題に入った。

「あの、、、松田さんは沙織ちゃんがずっと大好きで結婚したいんだけど、恥ずかしくて素直になれないって。

それで、どうしても結婚して欲しいから、そのためなら何でもするって。

、、、バッシー、どう思う?」

沙織はため息をついた。

「、、、冬、あの人そんな事言ってないでしょう。

わかりました。

あなたはもうこの事で何も心配する必要はないですから。
早く忘れて下さい。

自分の事だけ考えていればいいんですからね」

冬は少しホッとして頷き、考え込んで何気なく呟いた。

「僕は松田さんが羨ましいな。

大好きな人にちゃんと気持ちを伝えられる、、」

何言ってるんだか、他力本願で自分で言う勇気もないのにと思って、冬を見たバッシーは驚いた。

冬がポロポロ涙をこぼしていたからだ。

「冬!

どうしたの?
何か思い詰めてるの?」

その言葉で冬は気が付かずに泣いていた自分に気がつく。

「あれ?
何でだろう、、

大丈夫だよ、バッシー。

これ鼻水みたいなものだから。

意味なんて無いから。

ごめんね、心配かけて。

今日はありがとう。
もう帰ってね」

そう言って冬は優しく沙織を帰した。

沙織は冬の涙が忘れられずに、ぼんやりとして病院のエントランスにむかった。


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