誰かの願いが届くとき 87 夢見る存在の物語
直輝は三つ子の出産のためには、どの病院が良いのか聞くために、双子の出産経験のある沙織に聞くのが一番と思い、早速連絡しようとした。
その時さっきの衝撃の反動か、柄にもなく存分に自慢したい気分に駆られ、いそいそと松田に電話した。
「マッサン、バッシーは電話に出られそうか?
ちょっと折り入って聞きたいことがあってな。
実はな、俺に孫たちが出来るんで良い産院を教えてもらおうと思って。
ホラ、バッシーは双子だったから特別な管理される病院に詳しいだろう?」
隠そうとしても駄々漏れる喜びを抑えきれない直輝の喋りに、松田は早速興味を惹かれた。
「ナオキマン、何寝ぼけたこと言うとるんかの。
時差ボケか?
お前に孫って、、
んん?
どゆこと?
、、嘘じゃ、、
マジか!?
もしかしてもしかするんか!」
驚いて上手く引っかかった松田に大満足した直輝は、クライマックスを存分に味わった。
「そうなんだよ。
冬がパパになるんだ。
しかもな、双子じゃないぞ!
ウチは何たって三つ子だからな!!」
松田は一瞬黙ったあと、爆発した。
「ほんぎゃあああぁ~~!!!
なんじゃっと!!
三つ子、、、
三つ子じゃっと、、、
あの男、、
いっぺんに3人も召喚したんか、、
何とけったいな、、たまげたことよ、、
一体、どがな隠し玉を使いおったんか、、
冬のヤツ、、
やる事がまこと、えげつないの、、
あげな涼しい顔して恥ずかしげものう、、
このワシをば手玉に取りおって、、
このワシと双子ちゃんをば軽々とマウント取りおってからに、、
ワシの可愛い双子ちゃんが、アイツの三つ子の前にすっかり霞んでしまうがの!!
許せんっ!!!
あ、沙織ちゃん、、
そがなつもりはないんよ。
おおお、めでたい、もちろん、目出鯛、、」
しっかり話を聞いていた沙織は、松田を氷の視線で睨みつけてから電話を代わって、心からのお祝いを述べた。
「直輝さん、それは素晴らしいですね!
おめでとうございます。
三つ子なんですって?!
帆乃さん驚いたでしょうね、、
体調はいかがですか?
病院の件ですね、承知しました。
多胎児の出産はリスクが大きいですから心配でしょう。
私のお世話になった病院なら設備も整っていて先生、スタッフの皆さん、とても丁寧で優秀で素晴らしい方達でした。
こちらをお勧めします。
帆乃さん、とにかくリラックスしてゆったりと過ごせるように、よく注意してあげてくださいね。
本当に良かったです」
沙織の温かい祝福と絶対安心なアドバイスに胸が熱くなり、何としても無事に三つ子を誕生させなくてはと、直輝は決意した。
冬と帆乃は半年ぶりに揃って自宅に帰った。
寂しがっていた家が、やっとふたりで戻って来たんだねと喜んで、優しく出迎えてくれたように感じて嬉しい。
前日に東京駅のホテルに泊まっていた帆乃と母だったが、それでも帆乃は大きなお腹で身体がすぐに辛くなり、冬に甘えてアレコレ命令を始めた。
「足がむくんでだるいよう、、
冬、クッション置いて。
デザートに桃食べたい。
すぐお腹空くんだよね、、
一体どうなってるんだろ?
クーラー効きすぎてる。
優しい風の扇風機がいい」
次々と可愛いお願いを畳み込まれる冬は、ツアー帰りの疲れも吹き飛び、帆乃に桃を食べさせて、せっせと脚のマッサージをした。
ようやく満足した帆乃が、ゆっくり瞑想しようと冬を呼んだ。
「冬、スーツケースからウサギちゃんを出してあげて。
それから側に来て!
ちゃんと帆乃の背中支えてね。
うん、いい感じだよ」
帆乃はウサギのぬいぐるみを抱いて、冬に寄りかかった。
心地よくソファに寝転び、リラックスして夢見心地を楽しむ。
帆乃を大切に抱きしめている冬は、突然、全ての願いが叶っているのを発見した。
帆乃は微笑んで、こんなに甘えて必要として側にいてくれるし、自分は帆乃のために何でもしてあげることが出来る。
但し、赤ちゃんたちを代わりに産んであげることは出来ないが、その代わりに出来る事は何でも喜んで出来る。
水風船が大きく膨らみ過ぎたような帆乃のお腹に優しく触れながら、耳元にそっと囁く。
「帆乃、ありがとう、、
愛してる。
この子たちも、、
皆んな愛してる。
もう決して何処にもやらないからね」
それを聞いた帆乃はフウっと満足のため息を吐いて言った。
「ずっと冬の声、その声を聞きたかった、、
本当は赤ちゃんたちの心配でとっても怖かった。
何かあったらどうしようって、、
そんな時は心の中で冬にしがみついて、いつも抱きしめてもらってたんだよ。
そしたらとってもいい気分になって、絶対に大丈夫って信じていられた、、」
紆余曲折を経て舞い降りて来た天使たちをしっかりと抱きしめた冬も、これ以上ないほどの深い深い幸せなため息を吐く。
「何があっても帆乃の側にいるからね。
もう大丈夫だよ。
ちゃんと上手く出来てる。
オレは帆乃と三つ子ちゃんを受け取ったし、帆乃はオレを使って、いつまでも、どこまでも存分に遊べばいい、、」
冬のふたつの瞳に、うっとりと輝く優しい灯し火を交互に見つめて、帆乃は心から幸せを味わった。
愛の眼差しの光は、自分の内側から溢れる歓びを、しっかりと照らす。
「冬はとんでもない魔法使いだよね。
帆乃のこと、こんなにしてしまうんだから。
仕方ないからお言葉に甘えて、帆乃は冬の側でしばらく遊び続けるよ。
あとは任せたからね!」
ふたりは静かに微笑んで、神様からの特大プレゼントが宿る大きなお腹をそっと撫でた。
目出たし愛でたしと、帆乃と冬の映画は、無限の可能性の中から届くラストシーンを迎え、エンドロールは感謝を讃えてゆっくりと、そして幸せに幕を閉じる。
でも、次々と生まれてくる願いに終わりはなく、また新しく永遠に繰り返し続いていく、愉快で面白い、別の物語の始まりなのだった。