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誰かの願いが届くとき 37 死神バンパイア
まさかの舞島くん呼びに驚いた面々は、帆乃は一体誰なのか興味深々になった。
冬は照れてモジモジしているし、帆乃も後が続かないで困っていると、直輝がここぞと張り切って明るく話し始めた。
「そうですか!
昔の冬と面識があるんですね!
なら、話は早い。
どうぞ座って話しましょう」
ふたりが並んで座ったところで、助監督を務めることになる村雨(むらさめ)くんが、人好きする笑顔で質問した。
「冬って、昔どんな子だったんですか?
やっぱり、今みたいなイケメンでモテたんだろうな」
考え込んだ帆乃は、少ない思い出をかき集めて話し出す。
「舞島くんは、小さい頃からピアノが凄く上手かったって、私の母が覚えてました。
舞島くんのお母さんのリサイタルで、リストを弾いて皆んなを驚かせてたって。
それから中学の時、舞島くんはとってもちっちゃくて女の子みたいって、クラスの皆んなから可愛がられてました。
その時も、びっくりするくらいピアノが上手でした。
うーんと、それくらいしか覚えてないかな?」
それを聞いた松田は早速、探りを入れ始めた。
「凄いの!帆乃ちゃん。
冬がちっこくて女の子みたいじゃったなんぞ、こん中じゃ誰も想像つかんぞ!
そりゃあ、帆乃ちゃん、冬がわからんかったじゃろ」
松田の話し方が気に入った帆乃が、可笑しくて笑った瞬間、場の空気がパッと明るくなり一気に和んだ。
「そうなの。
舞島くん、こんなに大きくなってこんな事してたなんて、誰も知らないよ!
私も3日前までwho youのこと知らなかったです。
あ、ごめんなさい、、あんまり最近の曲とか聴かなくて、、」
あんなに帆乃を思ってやって来た冬は、ショックを受けながら帆乃に聞いた。
「、、帆乃ちゃん、今までどんなの好きで聴いてた?」
帆乃は暫く考えて
「あんまり歌とか曲自体、そんなに聴かないかも。
入り込むの苦手だし、聴き流すと集中できないし。
でも、マ、、母がショパンが好きなのでクラッシックの気持ち良いのは好きかな。
ミュージカルの音楽とかも。
あ! そうだ!!」
突然、帆乃が叫んだので皆んな驚いた。
「どうしたの?
帆乃ちゃん、お腹空いてるでしょ。
買ってきたおにぎり食べて良いんだよ」
冬は甲斐甲斐しく、買ってきたおにぎりとカップ味噌汁を帆乃のために並べながら聞いている。
帆乃は自分の思いつきに興奮した。
「うん。
それより、映画の世界観がショパンの協奏曲なの!」
その様子を見ていた沙織が、気を利かせてポットにお湯を用意しながら話す。
「第一番のピアノ協奏曲ですね。
初めは重い暗い感じで始まり、ロマンチックな中間部、そして最後は明るくて幸福感が高まる曲ですよね」
冬も続けた。
「うん、小さい頃、お母さんから繰り返し見せられてたよ。
ショパンコンクールのブーニンさんの演奏。
あのキレ感のある身体の動きからダイレクトに来るリズムが堪らなく好きだな。
第一番は破壊、癒し、解放、自由って感じがする」
ピアノとショパンに詳しくない人達は、早速YouTubeで調べ始めた。
帆乃は話が通じて嬉しくなり、遠慮なく話し始めた。
「あのね!
舞島くん、絶対オーケストラと一緒にショパン弾いて!
舞島くん、ピアノ凄く上手いでしょ。
出来るよね!」
冬と滅多なことでは驚きを表さない沙織まで、帆乃の言い出したことに驚いた。
コンクールの最終決戦曲にもなる、超絶技巧と研ぎ澄まされた究極の表現力と意図を必要とするこの曲は、きちんと弾きこなすだけでも難しい。
それなのに、オーケストラまで率いるとなると、クラッシックを専攻してない冬にとって相当なチャレンジになる。
そんな事は知らなくて、全くお構いなしの帆乃は楽しそうに話していく。
「舞島くんが、死神みたいに、それか吸血鬼みたいな格好で、カッコよくオーケストラ率いて、艶々の美しいグランドピアノ弾くの見たいな!
それで最後は天使になって、皆んなを天国かパラダイスに率いて連れて行くの。
オーケストラは、この前ショパンコンクールに出てた灰谷光さんがオーケストラ結成したって見たよ。
灰谷さんが率いるオーケストラなら最高じゃない?」
帆乃の滔々と湧き出る泉のようなアイデアに、皆んなは必死で食らい付いていった。