誰かの願いが届くとき 3 未知との遭遇
「大丈夫?
ゆっくり、慌てなくていいから」
見知らぬ男性に抱きしめられているのが恥ずかしくなって、慌てて離れようとする帆乃の肩を支えながら、who youと思われる男性は、心から心配そうに、そっと寄り添っている。
その男性の顔に、自然と目を奪われた。
薄く染めた金色の猫っ毛の髪が、顔の輪郭を囲んでいる。
しっかりとした眉毛。
大きめの黒縁メガネの下で、焦茶色の瞳は強い意志を秘めてキラリと光る。
スッと伸びた綺麗な形の鼻と、大きな優しい口元。
口周りに生えている髭のせいで、写真で見たよりもずっと年上の大人みたいだ。
帆乃は自分の両肩に置かれた、彼の大きな手を意識しながら、何でこの人は私をじっと懐かしそうに見つめるのだろうと思った。
心臓の鼓動が速すぎて、どうにかなりそうだったが、なんとかして男性と距離を取り謝った。
「、、すみません!
ご迷惑をお掛けしました、もう大丈夫ですから」
男性は首を傾げながら、なんとも言えない優しい笑顔を見せて
「小柳帆乃さんですよね?
僕がwho youです。
良ければフユと呼んでください」
フユの心地よい声音の言葉を聞きながら、不意に帆乃は思い出した。
(そう言えば、昔、冬って名前の男の子いたな。
美少女みたいで小っちゃくて綺麗な男の子だった、、)
目の前の立派な髭面イケメンを見ながら、なぜいきなり遠い昔のことが思い出されるのか考えていると、フユの側にいた上品な女性が、名刺を差し出し笑顔で真っ当な挨拶を始めた。
「初めまして。私は詩音奏舎の大林沙織と申します。
who youのマネージャーをしています。
小柳様に来て頂けて大変光栄です、何卒よろしくお願いいたします。
道中は如何でしたか?」
あまりの丁寧な挨拶に、帆乃は圧倒されながらも、それに釣られて自分も仕事モードに入っていった。
「こちらこそ初めまして、小柳です。
どうぞよろしくお願いします。
ちょっと早く着き過ぎて、居眠りしてました。
えっと、、私の脚本の事ですよね?
映画にしてもらえるのでしょうか?」
帆乃が緊張していきなり本題に入ると、フユが楽しそうに、
「ねぇ、ラウンジでお茶でもしながら話そう!
何か美味しいもの食べようね、帆乃ちゃん」
それを受けてマネージャーの大林も続ける。
「小柳様、あちらにどうぞ。
お席をご用意しております」
いきなり現れた都会のお洒落な二人に促されて、気後れしながらも帆乃はラウンジの席に着いた。
なぜかフユは帆乃の隣に、少しでも離れたくないという様に近づいて座った。
(?? 近いよね、、、こういうフレンドリーなのが普通の人なのかな?
よくわかんないけど、今は集中しなきゃ)
マネージャーの大林もフユの行動に驚いた顔を一瞬したが、すぐに話を続けた。
フユは映画を自分で企画して創りたいと思っていたところ、たまたま帆乃の脚本と企画を読んで、自分のイメージと世界観がピッタリ合った。
是非、脚本家として映画作りに参加してほしい。
条件や注文は可能な限り相談検討の上、全て引き受けるという事だった。
帆乃は降って湧いてきた話に目を丸くする。
今まで何作が脚本を書いて、コンテストに応募してきたが、入選はしても最終まで残らず、こんなものかと思い出していた。
どこかのプロデューサーに目を付けられ、脚本の設定変更やキャラクターの修正を指示されたが、帆乃は納得できないと断ると、それっきりだった。
帆乃は、自分の脚本や書くものは、納得出来ないと絶対変更はしないと思っている。
自分の考え方や感じ方を、誰かや何かに不自然に変えられるのは、死んでもイヤだった。
自分が思い描いたような配役と感性で、脚本を映像化してくれる人がいたら、どんなに素敵でワクワクするだろうという希望は何度も想像していた。
そうして2年くらい経ち、このなんだかよくわからないほど各方面に才能があり、魅力的なビジュアルのwho youが叶えてくれるというのだ。
(奇跡おきちゃった?
それにしても出来過ぎで怖いくらい、、
私には未知過ぎて、何が何だか理解不能、、)
夢のような展開に、帆乃は半信半疑で、思わず口に出してしまった。
「、、、私、もしかして、パラレルワールド移行しちゃった?」
それを聞いたwho youが楽しげに笑いながら
「ようこそ、僕のいるパラレルへ!」
と言って、また帆乃を熱心に見つめた。