誰かの願いが届くとき 58 オーディション
オーディションの前日に、田舎から中学の幼なじみの茜が、冬と帆乃を訪ねてマンションまで遊びに来た。
「帆乃~!元気?
舞島くん!
舞島くんなのね!?
わあ〜〜!本当にwho youだ!
凄いよ!!
帆乃、ついに脚本家デビューだね、嬉しい、ホントに、、
わーーい!!
ほんとにおめでとう!!!」
茜は涙を流して喜び、クリスマスを意識した華やかなブーケを2人に送った。
「、、茜ちゃん、、ありがとう。
これ、凄く素敵。
もうすぐクリスマスだね。
師走で忙しいのに、来てくれてありがとう。
なんてお礼すれば良いのかわからないや、、」
つられて泣きそうな帆乃に、湿っぽくなるのはゴメンな茜は、直ぐニッコリと笑った。
「何言ってんの!
帆乃の映画に出られるかも知れないのよ。
こんな嬉しいことないよ!
私の女優魂が疼くわ!
それにしても、、、
何も無いじゃない!
このリビング、、
テーブルとソファだけって、、
それにスターが住むにしては、こじんまりとしたマンションね。
who youは、もっと都心のタワーマンションみたいな、上から下々を見下ろすような凄いところに住んでるのかと思った」
一体どういうイメージを持たれてるのか、さっぱりわからない冬は答えた。
「えっと、、期待に添えなかったのかな、、
帆乃が気にいるなら、オレはどこでもどんな風でも良いんだけど。
何でも買ってあげたいのに、自分のためにモノを増やすなって、、
でも事務所の社長さんの家が近くて、とても良いところだよ、ここも。
倉吉さん、来てくれてありがとう。
それから、映画にも出てくれるなんて、倉吉さんこそ凄いんだね」
悪びれない茜は、ニヤリと笑って
「舞島くんの足元にも及ばないけど、帆乃のために頑張る。
うふふ。
帆乃、愛されてる!
前よりうんとイキイキして可愛くなってるよ!
もう、それ見れただけで田舎から這い出して来た甲斐あったよ」
茜も帆乃に抱きついて、溢れる帆乃愛を表現して、冬に見せつけてやった。
やりとりを聞いて恥ずかしい帆乃は
「嘘ばっかり、、
2人して何のお芝居してるんだか、、
このお家、何も無いから社長さんの直輝さんのお家でランチしない?
奥さんの千里さんが、映画で家族になるんだから連れておいでって。
今日は直輝さんがパエリア作るんだって。
デザートは何だったかな?
カンノーロだっけ?
猫ちゃんもいるんだよ!
プリンちゃんっていうの」
早朝に自宅を出て飛行機で来た茜は、お腹ペコペコだったので大喜びした。
「やったー!!行こ行こ。
美味しいもの食べようと思って、途中、我慢してたんだ!
社長さんと奥さんも良い人達なんだね。
帆乃、安心でしょ。
本当、なんて運がいいんだろ、、
これから、ずーっとそうだよ!
そうに決まってるよ!!」
心から親友の幸せを願う優しい思いが、帆乃と冬は素直に嬉しかった。
直輝の家で賑やかに食事をして、帆乃と冬と映画をネタに溢れるように話をしまくった茜と千里は、すっかり意気投合し仲良くなっていた。
茜は夕方から仲間たちと落ち合い、もう一騒ぎするために、待ち合わせ場所近くのホテルを取っていた。
明日のオーディションの練習も兼ねて仲間内で楽しく過ごすらしい。
また明日、、と見送る帆乃は、いよいよプロジェクトが始動を始めるのかと、後戻り出来ない怖さを感じる。
冬は感慨深く言った。
「この映画に関わる人達は、皆んなどこかで決められていて、その運命に喜んで参加してるみたいだね。
その事自体が、映画みたいだ。
大丈夫だよ、帆乃。
自分さえ見失わなければ、自然と上手く行くように出来てるから。
何も怖がることはない、、」
帆乃はそれを素直に聞いて、心が軽くなった。
余裕が出たせいか、つい無意識に冬を苛めた。
「自分を見失わないって、難しいと思うよ。
だって、気がついたら見失ってるもん。
そうだよね、冬、、」
思い当たりが有りすぎて、返す言葉がない冬は、思わず自分の口を押さえた。