誰かの願いが届くとき 61 愛への導き
遠くで音色が響く。
怖くてどちらに向かえばいいのかもわからない暗い闇の中、足元をそっと照すような音、、
冬は、ショパンのコンチェルトのロマンツェを弾いていた。
穏やかな月灯りが見守るように輝き、帆乃の道を優しく照らしている。
歩き回り疲れ切った帆乃を、本当の自分がいたいと思う場所へと、優しく導いてくれる、、
こんなに美しくて懐かしいお月様は、見たこともないくらい。
どこまでも一緒に付いてきて、しっかりと寄り添ってくれる。
お月様から溢れるようにポロポロと落ちてきた光の子供達が帆乃の周りで遊んでいる。
帆乃の心に真っ直ぐ差し込んで、どんな自分でも、いつだって、一心に見つめている、それでいいよと優しく訴えかけて来る。
そして、身体と心はいつしか、優しくユラユラ揺れる光の波で柔らかくなる。
この光は、帆乃だけを照らす、永遠に変わらない愛への導きなんだ。
幻想的で儚い、夢のような物語を生きてる。
冬の創る世界の自分は、可愛くて仕方ない赤ちゃんみたいに、甘えることが当然で、特別に大切にされる宝物で、その感覚の心地よさに満ち溢れる。
帆乃は、冬の願いから生まれて、今ここにある存在。
冬は、帆乃の願いのために生まれて、今を創造する存在。
意識することで紡がれる、自分自身の極上のオリジナルストーリーを生きるために、大いなる宇宙の法則を使って、今、共にここにいる。
帆乃はベッドから起き上がり、音のする方へ向かった。
冬は帆乃に届けるため、部屋の扉を開けたまま、ピアノを弾いている。
近づいて、冬の座っている椅子の近くにしゃがみ込み、脚に手をかけた。
気がついた冬が弾くのをやめて見下ろすと、瞳を潤ませた帆乃が自分の顔を見つめて言った。
「今更こんなこと言うの、どうかと思うんだけど、、
私、何度も間違えて、出来なくて、迷惑いっぱいかけるかもしれない、、
それでも、、
許してくれる?
冬に頼っていいの?
甘えていい?」
そっと帆乃の手を取った冬は、そのままリビングのソファに連れて行った。
帆乃は冬の答えを待つ。
冬は帆乃をしっかりと見つめて
「帆乃の願いを全て叶えたい。
だから、今ここにいるんだよ」
冬の完璧すぎる答えを聞いても、帆乃はまだ怖さと不安が消えなくて、自信もない。
でも、今はそれでいいと思った。
どんなに自分が馬鹿げたことをしても、この冬の存在が、完璧に守ってくれるという自信は確かにあった。
冬と帆乃が去った後、直輝はずっと連絡を待っていた。
2時間ほどたった頃、冬から帆乃がヒロインをやると言う連絡をもらい、ああヤレヤレと胸をおろす。
「全く、このふたりにはハラハラさせられるな、、
どうなることかと思ったけど、ひとまず目出たし、だな」
帆乃への謝罪文と、双子への教育方針の宣誓を、沙織から命じられ半泣きで書いていた松田は言う。
「、、沙織ちゃん、、
ワシ、ほっぺ痛いんよ、、
もう勘弁してくれんかの。
なんじゃ、ナオキマン。
そげな心配せんでええ。
冬がおるでな。
上手く行くに決まっとろうが。
帆乃はの、あの冬が連れて来た子ぞ。
ただモノじゃなかろうが。
後は、このワシのクリエイターの腕の見せどころじゃて。
任せときんちゃい。
あーー、帆乃さま、ごめんなさい。もうしません。許してください。私が悪うございました。嘘ついたら針千本、、、
こんなんでええかの?
沙織ちゃん、一件落着したみたいぞ。
可愛い双子がママとパパを、ネグラで今か今かと待っとるでな。
早よ帰らんかの?」
沙織の顔色をチラチラ見ながら松田は喋った。
それを完全無視して沙織は直輝に聞いた。
「もしかして、帆乃さんには何かあるんでしょうか?
詮索するつもりは全く無いんですが、後で何か問題になるようなことが起きなければいいんですが、、」
直輝もそれは当初から考えていたが、冬が何も言わないので、知りようもなかった。
「とりあえず、冬は帆乃がいないと死んでしまう、いても死にそうになる、くらいかなぁ、、
そのうち、折を見て冬に聞いてみるか」
この時の小さな波紋が後に広がることになるとは、今の時点で誰も想像はつかなかった。
[二部 完、三部に続く]