![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/164556455/rectangle_large_type_2_c7fc06840c1068ac37861c80a2cbf8c6.png?width=1200)
誰かの願いが届くとき 83 ミニトマト
やがて映画は終わりを迎え、最後のエンドロールが流れはじめた。
舞島冬 小柳帆乃
まるでお雛様みたいに、ふたりの名前が仲良く並んでいる。
松田駿 宮沢直輝 宮沢千里
倉吉茜 村雨晃 アラレトリツキーノ
狭間仲良 熊飼一貴 灰谷光
大林沙織 大林紫 大林息吹
大林実沙 松田沙知
舞島聡 舞島櫻子
小柳みちる 沢井源治 沢井琴江
、、、、、
次々と、懐かしい大切な優しい人たちの名前が、あっという間に通り過ぎていった。
そして最後に、special thanksとして
Harvey 小柳明史
と、流れた文字を見て、帆乃は驚いた。
冬の家の亡くなった愛犬と、帆乃の父の名前だった。
これを見て、冬はちゃんと分かってくれていたんだと、帆乃は泣き出した。
父を感じて書いた脚本、、
冬をこの世界に戻して、帆乃に導いてくれたふたりの存在。
それが無かったら、この映画は生まれていなかった大切な名前。
帆乃は自分のしたことを振り返った。
冬は、どんな方法を使ったのか知らないけれど、帆乃を見つけ出して、帆乃の夢を叶えた。
それなのに黙って逃げるように出て行った帆乃を、冬はどう思っただろうか?
冬はこんなにも優しくて、何も恐れず、自分の出来る全てを捧げて大切にしてくれたのに。
ちっぽけなプライドを守ろうとして意固地に思い詰め、綺麗事と責任を言い訳に、怖くて逃げ出したのでは?
冬の未来を思うフリをし、正しい選択をしたつもりで、本当の自分の願いを封印してしまったのでは?
大好きな人たちと、いつまでも一緒に笑っていたいという、心から生まれたシンプルな願いを誤魔化してしまったのでは?
でも幾度やり直したとしても、バカな帆乃はきっとそうしてしまう。
これも運命なんだと思った。
ごめんね、冬、、
心の中で謝るしかなかった。
冬を静かに優しく抱きしめて、過去も今も未来も、彼の全ての幸せと笑顔を、ありったけの愛を込めて、祈り、願った。
映画を観て来た数日後、帆乃は扁桃腺が腫れ、喉は痛いし熱も上がってフラフラになる。
お昼前にポーッとして熱冷ましの薬をキッチンで探していると、おばあちゃんが心配してやって来た。
「帆乃ちゃん、どうしたん?
しんどそうじゃね、、
薬飲むつもりなんか?」
帆乃は頷いて、薬を飲もうとしたのに
「薬飲んで大丈夫なん?」
おばあちゃんが何を言ってるのか理解できない帆乃が、首を傾げて不思議な顔をしていると
「お腹に、もしも赤ちゃんおったらいけんからね。
ちょっと生理がいつ来たか考えてごらん?」
それを聞いて帆乃は余計にポーっとした。
まさかと、もしかしてが激しく交差する。
「、、、わかんない、、、」
おばあちゃんは、さもありなんと言った顔をして優しく言った。
「甘酒作ってあげようか?
それともおかゆかおじや?
おうどん煮たのがええ?
オコタに入って待っときなさい」
真っ白になった頭の中の帆乃は、それでも、おうどんがいいと言ってコタツに入り、まとまらない考えに翻弄された。
2日経ち、何とか外出できるくらいまで回復すると、ひとりでは怖すぎたので、母と近くの産婦人科に行った。
その頃には明らかに身体の変化をしっかり感じて、否定しきれない状況がある。
胸がいつもより張っているし、体温は微熱のままで、あんなに好きだったチョコレートが全く欲しくない、、
下腹部は気のせいか、シクシクした感じがして、謎の生物に侵略されている気がした。
医師の診断を受けるために診察室に入って、恐々と診察台に寝転びエコー診断を受けると、ベテランの女性医師が何でもないように話した。
「ここに胎嚢が見えますね。
心音も確認出来ます。
2センチ、、
ミニトマトくらいの大きさかな。
妊娠3ヶ月初期ですね。
おやっ?
あれっ?」
その後の話を聞いた帆乃は、立ち上がれないくらいに驚き、母に抱えられながら何とか家に帰った。
家に着くと、今まで何とか我慢していた母が帆乃を捲し立てた。
「何でもいいから今すぐ、冬くんに連絡しなさい!
あなたがしないんなら、ママが話すからね。
、、、ひとりでもアレなのに、、
三つ子だなんて!!!」
帆乃はまだ頭がボンヤリしていたが、母の剣幕にたじろぎながらも頑張った。
「ママ、絶対に言っちゃダメ!
今、冬に話したら心配して何もかも放り出して来るから。
、、6月になったら必ず話すから。
それまで待って!
お願い、、」
心配でおかしくなりそうな母は、そんな言い分は通らないと叱る。
「コンサートと帆乃と赤ちゃん達、どっちが大切か、冬くんに選ばせたらいいでしょう?
帆乃だけの問題じゃないの!
信じられないけど、あなたもママになるんだから、独りよがりはいい加減にしなさい!」
その通りだと思いながらも、帆乃は絶対に今は言えないと思った。
「ママもみたよね!?
冬のコンサート、、
日本だけじゃなくて、世界中にチケット買って楽しみに待ってる人が沢山いるんだよ!
その人達、冬が来ないって知ったらどう思う?
帆乃はそんなの耐えられないよ。
それに、今、冬に来られても大してすることないでしょう?
赤ちゃん達、お腹の中なんだから、、
それまで、帆乃がちゃんとお話して許してもらうよ」
最後のは帆乃には自信が無かったが、こう言うしかない。
でも母は納得出来ずに帆乃を諭した。
「帆乃の言うこともわかるわよ、、
でも、冬くん、コンサートやめて来るとは限らないでしょう?
これを知らせなかったら、冬くん、どんなに残念に思うか、、」
それでも頑固な帆乃は言い張った。
「ママ、本当にごめんなさい、、
でも、ママは冬のこと分かってないよ。
冬は、もの凄く愛情が強くて一途なの。
帆乃と赤ちゃん達のことを知ったら、居ても立っても居られなくて、直輝さん振り切って来るから、、
帆乃たちのそばから決して離れない人だから、、
だから、お願い。
6月まで、帆乃は何としてもこの子達のこと守るから、、」
言っている言葉が余りにも恥ずかしく、お芝居みたいに聞こえた。
でも、赤ちゃん達のことを守ると言ったら何故か涙が溢れた。
この子たちは、何故だかわからないけど帆乃を選んで来た。
こんなに母親になるのにふさわしくないのに。
この三つ子はまるで、バカな帆乃とダメな冬をつなぐ虹の架け橋に思えて、その愛しい切なさに涙がとめどなく溢れた。