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届かなかった手紙
今年もこの時期がやってきた。
誕生日が近づくと産みの母を思い出す。
去年、渡してもらおうと環の会に託した手紙は、産みの母には届かなかった。母は既に他界していた。
届かなかった私の想いをnoteに載せ、少しでも浄化させようと思う。
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産みのお母さんへ
お元気ですか?
私は28歳になりました。
あなたが私を産んだ年齢にはまだまだ届きません。
大人になった私。子どものときには知らなかった世界が沢山ありました。
仕事から帰ったら美味しいご飯は用意されていないこと、働いても自由に使えるお金は少ないということ、付き合っても結婚しても必ず幸せとはいえないこと、などなど。
まだまだ私の今の年齢でも、私を産んだときのあなたの気持ちや状況の多くを分かることは出来ないけど、少しは分かってきたように思います。
今、私が思うことは、あなたの人生が幸せだったかということです。
私を産む前にも子どもを産んだと聞きました。その子も手放しているとか。
そのときそのときでの事情があったと思います。それでも2回も我が子を手放すあなたの気持ちを考えると想像を絶します。
考えようによっては子どもを捨てたと思う人もいるかもしれません。でも私は手放さぜるを得ない状況だったと思います。
その後の人生はどうだったでしょうか?支えてくれる友人や、家族はいましたか?幸せを感じられる瞬間が多くありましたか?私がいない世界で素敵な人生を送っていれば嬉しく思います。
私は今幸せです。大好きな家族や多くの友人がいます。甥や姪が誕生し、11人家族になりました。今の私があるのはあなたのおかげです。
私を10ヶ月間、お腹で守ってくれてありがとう。私を産んでくれてありがとう。私をお父さんお母さんに託してくれてありがとう。
あなたの人生が私を産んだことも込みで、実りある人生だったことを願います。
話は変わりますが、今夏、特別養子縁組の展示を行いました。私の人生を振り返る展示です。
準備で振り返ってみて、そして展示の中で様々な人の意見を聞いてみて、チャンスがあるならば、あなたにやはり1度会ってみたいと思うようになりました。会って話をしてみたいと純粋に思います。もし良ければ、是非よろしくお願いします。
難しいときは、あなたの顔や私の産みの父の顔だけでも見てみたいので写真やあなたの思いを綴った手紙を頂けたらと思います。もし、私があなたの思い出したくない過去の記憶だとしたら、配慮が足りず申し訳ないです。
それでは、お元気で。何かしらの返事があれば、とても嬉しく思います。長生きしてください。愛しています。
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小さな頃から周りの顔色を伺うタイプだった。友だちからはいつも明るく元気、悩みなんてないタイプ、そう言われていた。
でも実際は明るく見せていただけ、知らずに癖になっていた。
生きているだろうと思って書いた産みの母への手紙を読むと改めて思う。
自分は産みの母に好かれたかったのだと。
物分りの良い子でいたかった。
産みの母なんて気にせず、育て親とその家族、友だちと何不自由なく生きる強い私でありたかった。
強がって生きてきて、youthの活動や展示会をしてようやく分かった本音さえも全ては打ち明けれず、そして産みの母の想いを尊重した手紙だった。
そして届かなかった手紙。悲しいけれど、死者は蘇らず、私の想いが届くことはこれからもない。なので、このような想いをした養子がいることを支援者や育て親、そして産みの親に知ってほしい。この手紙が私の産みの母ではない誰かの心に届くことを願って。