【連載・第二回】 月に住むものとウサギの仕事(2021年9月20日)
前回、日本のお月見と「中秋節」についてご紹介しました。
その際、共通の月へ行く女性の話があるということに触れたので、今回はそのお話を紹介します。
まずは中国のお話
弓の名人である羿(げい) とその妻、嫦娥(じょうが)、ふたりは天界の住人でした。
ある時から、空に10の太陽(天帝の子)が出てきてしまい、地上は灼熱の地となり大変なことになります。
困った天帝は、羿(げい)に特別な弓を渡し10の太陽(天帝の子)を1つにするよう命じます。
羿(げい)は命令通り1つを残し、地上は救われますが、子を殺された天帝は次第に羿(げい)を疎ましく思うようになります。
結局、ふたりは神格を剝奪され地上に暮らすことになりますが、羿(げい)の功績により西王母(天界を統べる女神)から不老不死の霊薬を賜ることができました。
これで再びふたりは不老不死になれるはずでしたが、妻の嫦娥(じょうが)がそれを独り占めして飲み、月へ逃げてしまいます。
月へ行った嫦娥(じょうが)は、その報いでヒキガエルにされました。
妻に去られた夫の羿(げい)は悲しみに暮れ、毎年妻の好物だった果物とお菓子を備えるようになりました。
それが中秋節の始まりになったと言われます。
正直ちょっと後味の悪い話ですね・・・。
この、弓の名人だった羿(げい)氏、日本の「将門記」や「太平記」にも名前が出てくるというのですから、なかなかの有名人だったようです。
ちなみに、彼は後に師匠がいなくなれば一番になれる、と考えた自分の弟子に殺されるという最期を向かえます。
なんでしょう・・・もう残念としか言えません。
月の住人として、日本に暮らす私たちが真っ先に思い浮かべるのは、ウサギですが、月にウサギが住んでいるのは、日本も中国も共通のようです。
ただ、日本のウサギが餅つきをしているのに対して、中国のウサギは不老不死の薬を作っているのだとか・・・。
ひょっとすると、逃げた嫦娥(じょうが)が罪の意識から作らせていたりして?
次にベトナムのお話
クオイ(Cuội)という、きこりがいました。
葉っぱを噛み砕いて口に含ませると、死人も生き返る不思議な木を偶然手に入れ、人助けをして有名になります。
しかし、それを面白くないと思う者により、奥さんは殺されてしまいます。
不思議な木の力で生き返るものの、それを境にすっかり忘れっぽくなってしまった妻をクオイは心配します。
木を運んできた時に出逢った老人から、もしも汚い水をあげてしまったら、木は空へ飛んで行ってしまうだろうと言われていたからです。
クオイが心配した通り、妻はある日うっかり聖なる木の傍で用を足してしまいました。
すると、枝に座ったクオイの妻を連れて木は月まで飛んで行ってしまいました。
(注:妻ではなく駆け付けたクオイを連れて飛んで行ってしまった、という別バージョンもあり)
ベトナムでは、中秋節に灯籠を灯すのは、地上へ帰る道を教えているからだそうです。
日本は、というと
日本で月へ行った人と聞いて、皆が思い浮かべるのは「竹取物語」のかぐや姫でしょう。
老夫婦が光る竹の中から見つけた女の子をかぐや姫と名付け育てます。
尋常でないスピードで成長したこの娘は美人として評判になり、求婚する者達も出てきますが、みな無理難題に玉砕します。
ある時から月を観て泣くようになった姫に夫婦が理由を尋ねると、自分は月へ帰らなくてはいけないと言います。
これを阻止すべく帝が兵を出しますが、結局月からの迎えに為す術なく、かぐや姫は月へ帰ってしまいました。
後に傷心の帝が、残された不老不死の薬を姫なき世に不要として燃やした山は、富士(不死)山と呼ばれるようになりました。
中国やベトナムのように「十五夜」の行事とは直接関係ありません。
しかし、能の「羽衣」で出てくる天女も月宮殿から来たと言っていますし、月の模様を女性と考えるの国が、インドネシアやヨーロッパなど他にも多くありますから、月には女性が暮らしているのかもしれません。
アポロ11号が月へ行ってから50年が過ぎても、月はその起源も内部組成も未だ全容がわからない
私たちにとって身近でありながら今も不思議な存在です。
中国の月探査機は「嫦娥(じょうが)」ですし、日本の月周回衛星の名前は「かぐや」でした。
月に魅せられた人間は、きっとこれからも近くて遠い月を眺め、さらに月を知りたいと思うのでしょう。
前回の「お月見」について知りたい方は、是非こちらもどうぞ→意外と知らないお月見の話