長征5号B(中国)の「無制御」再突入①:ロケットの概要と再突入の経緯
中国はロケットを「無制御」のままで大気圏に再突入させた。大気圏での燃焼が十分でないと、上空でロケットの残骸を散乱させるおそれがある。まさに、スペースデブリの拡散と地上への落下という事態になる。また、どの程度のスペースデブリがどこに落下するのかを予測することが困難になり、不確実なリスクを高めることになる。
2021年4月29日、宇宙ステーションを構築するモジュール等を搭載した「長征5号B」ロケットが、文昌航天発射場から打ち上げられた。長征5号Bについては中国政府からは詳細情報が公開されていないようだが、欧州宇宙機関(ESA)によると、中国が独自開発する宇宙ステーション「天宮」を構築するために、「天和」(Tianhe9)というコアモジュールを搭載し、これを高度340~450キロメートルのLEOの軌道上に配置させるものであるという。
「天和」の高さは16.6メートル、直径が4.2メートル、重量が22トンになる。これを打ち上げるために、長征5号Bはコアステージと4つのサイドブースターを備え、各サイドブースター(約28メートル)はそれぞれの推力が240トンあり、強力である。そして、ロケットのコアステージは高さ33.2メートル、直径5メートル、重量が22トンであるという。
通常、ロケットのコアステージは宇宙空間の軌道に配置せず、別に装備した小さなロケットステージ(第2段目ロケット等)を軌道に乗せた後、打ち上げ直後に海に落下させる。しかし、長征5号Bは、ステージ全体をLEOの軌道上に配置して、ペイロード(ここでは、「天和」)を送り込むという独自の設計を備えている。ロケットに複数のステージがないため、一本のコアステージが異常に大きなサイズになっている。
再突入
ペイロードを送り込むミッションを完了した後、コアステージは高度を下げ、地球の大気圏に再突入することでコアステージ自体は燃焼することになる。しかし、米国の宇宙軍(USSPACECOM)によると、長征5号Bは8日にアラビア半島上空で再突入したが、燃焼し切らなかった残骸がモルディブ北部のインド洋に落下したようである(orbit.ing-now.com)。
長征5号Bの再突入は、政府機関や民間企業などによって事前に予測時刻が示され、実際の再突入に関しても、さまざまな組織や個人が観測を行って関連情報を提供している。特に最近では、スマホカメラやSNSが普及していることもあって、個人による情報提供が増えてきている。例えば、中東やスペインで再突入が観測され、上空に飛んでいる小さな光の斑点を撮影した映像がTwitterで公開されている。
また、個人の地上観測によって、ロケットのコアステージが定期的に閃光することが確認された。これは、再突入前にコアステージは転がっていて、制御(コントロール)されていないことを示唆しており、orbit.ing-now.comやSpace-Track.Orgが制御されずに再突入が行われたことを明確に示している。
一方、中国の政府機関では、China Manned Space Engineering Office (CMESO)が、長征5号B は9日の朝にインド洋のモルディブ上空で再突入し、そのほとんどが燃え尽きたと発表した。また、新華社通信は、再突入は北京時間の9日の午前であり、「大多数の機器が再突入時に認識できないほど燃やされた」と報じている。
残骸デブリの落下
当初は欧州宇宙機関(ESA)が、地球表面の落下範囲を「リスクゾーン」とし、米国のニューヨーク、アフリカとオーストラリアのすべて、アジアの一部、ヨーロッパのスペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャなどがその範囲になると予測していた。
USSPACECOMは、長征5号Bの残骸が陸地または海域に衝突したかどうかは不明であり、落下の正確な場所と破片の大きさが発表されることはないとした。また、それについて個々の政府に直接通知することもないとした。
一方、中国の政府機関は、再突入時に装置の大部分が燃え尽き、残りの残骸はモルディブ付近のインド洋に落下したと発表した。orbit.ing-now.comもそのように報告している。モルディブ国防軍によると、沿岸警備隊がモルディブ海域に落下した残骸の報告を受けた後、捜索活動を行っているという。
長征5号Bの再突入や残骸、落下地点等については、このほかにもさまざまな報告や専門家の見解があった。その詳細は「監視と予測能力の実態」で記す。
※冒頭の写真は、打ち上げられた「長征5号B」(CNSA)。