繰り返される中国ロケットの「無制御」再突入③:残骸デブリのリスク
再突入後に生じる「残骸デブリ」の地上へのリスクには、依然として不確実性が伴う。人や建物に害を与える可能性は低いとされながらも、残骸デブリの軌道の下に人口密集地が重なることを踏まえると、被害が発生した場合の甚大さが懸念される。
予測
宇宙物体が大気圏に再突入しても、燃焼し切らずに「残骸デブリ」が地表に落下する場合がある。一般的な経験則としては、大型の物体であるとその質量の20~40%が地表に落下するといった見解があり、今回の場合は「残骸デブリ」が約5~9トンと予想されている。再突入後は、機器が一体的に維持されたまま落下するのではなく、各部分が分裂したり、断熱材(insulation)などの軽量部品がバラバラになって脱落したりする。
残骸デブリが人や建物等に被害を与える可能性に関しては、再突入する宇宙機器にもよるが、地上への被害を受ける確率が1,000分の1から230分の1、個人のリスクは10兆分の1から6兆分の1とさらに低くなるという見解がある。人が雷に打たれる可能性がこれの約80,000倍大きいので、現時点では考慮すべきリスクではないのかもしれない。個人へのリスクはほとんどなく、日常生活のあり方を変える必要もなく、何がしかの予防措置を講じなければならないほどコストをかけるべき脅威ではないとされている。
しかしながら、例えば今回の長征5号Bロケットの「無制御」再突入の場合、潜在的な残骸デブリの軌道フットプリントの下で世界人口の88%以上が日常生活を送っているため、残骸デブリの一部が人口密集地域に落下する可能性があると指摘されている。残骸デブリが巨大な状態のままで落下する場合にも不確実性が伴う。最新の研究では、制御不能な再突入が10年間で1人以上の犠牲者を出す可能性が10%あると示されている。被害の発生を招くかどうかの予測には、依然として不確実性が伴っているのである。
実態
過去に3回打ち上げられた長征5号Bロケットでは、2020年5月にアフリカのコートジボワール、2021年5月にインド洋のモルディブ諸島付近、2022年7月にフィリピンのパラワン島付近のスールー海に、燃え残ったコアステージの破片が落下したとされている。
2020年5月の落下は、金属製の物体がコートジボワールの村に落下し、建物への被害があったと報告されたが、被害を受けた者の報告はない。2022年7月の落下では、マレーシア上空で分裂した後、インドネシアとフィリピン周辺の陸地と海域に破片が散乱したという。ボルネオ島や、マレーシアとフィリピンでも破片の一部が発見されたようである。
人や建物への直撃の確率は非常に低いとされながらも、分裂し散乱した残骸デブリが都市や住宅地域などの人口密集地に落下した場合、甚大な被害が発生する可能性を排除することはできない。中国政府は、長征5号Bロケットの再突入では、再突入時に破壊されるように設計された特別な技術を使用しており、航空活動と地上に被害を及ぼす可能性は非常に低いとしている。しかし、Aerospace Corporationは、人の安全と物的損害に関して一般的に受忍できるレベルをはるかに超えるリスクをもたらす可能性があることを指摘している。残存するリスクが排除されず、そのリスクが受忍レベルを超える可能性があるとなれば、リスク低減のための措置を取ることが求められるであろうし、また、リスクに伴う影響を受ける者にとっては、被害の発生を事前に防ぐ対策を備えることが必要になってくるであろう。
※冒頭の写真は、1997年に米国のテキサス州に落下したデルタ2型ロケットの燃料タンク(@NASA)