大好きな映画のタイトルを伝えられなくても
コロナで国際遠距離恋愛の辛さに拍車がかかる今日この頃。最初こそ毎日泣いて、八つ当たりだってしたけれど、最近はポジティブに捉えられるようになってきた。
『映画おすすめ合戦』はほぼデート
今では恒例行事と化している、どちらからともなく始めた私たちの『映画おすすめ合戦』。同じ映画を見て感想を言い合うのって、ほとんどデートじゃん。お互いの感性や考え方もわかるし、映画ってなんて素敵な緩衝材。
何より、私は映画などを制作するプロダクションでバイトするほどの映画好き。元ラッパーの彼とはヒップホップが好きという共通点で出逢ったにも関わらず、彼もなかなかの映画好きと分かってとても嬉しかった。
彼の一番好きな映画は『メメント』。何者かに妻を強姦され殺されたレナードは、記憶が10分間しか保たない前向性健忘症になりながらも犯人を捜す。難解と称されるクリストファー・ノーラン監督作品だ。
Memento (2000) IMDb
邦題も原題も韓国題も同じだ。でも、ただでさえ難解と言われる作品の感想を、韓国語で伝えるなんて容易ではなかった。今さら翻訳機に頼るなんてと悔しさに歯を食いしばりながら、初めて見る単語を継ぎはぎして感想を述べた。彼は何とかわかってくれた。
私のお気に入りは「ビフォア」シリーズ3部作の1作目『恋人までの距離』。原題の”Before Sunrise”も日本でよく知られたタイトルで、韓国題も原題ママ。パリ行きの長距離列車で出会ったアメリカ人のジェシー、そしてフランス人のセリーヌが途中下車したウィーンで惹かれあう様子を終始会話だけで魅せる作品。
Before Sunrise (1995) IMDb
最近では彼との思い出と重ねて見返すこともしばしば。彼も「僕たちみたいだね」と気に入ってくれて、3部作をすべて鑑賞。最近では映画のワンシーンをパロディした小ネタを会話を混ぜてくるくらいだ。
映画の韓国語タイトルがわからない
しかし、そんな彼の何気ない一言が、私に言語の壁を認識させることとなった。
「ビフォアサンライズみたいな映画、他に知ってる?」
パッと思いついたのは『恋人たちの予感』。邦題が似ているのもあるが、年代や質感、プロットも少し似たものがある。彼にオススメしようとカカオトークを開いた。
When Harry Met Sally... (1989) IMDb
でも、『恋人たちの予感』って韓国語で何て言うんだろう。
Googleで検索して原題を調べたところ”When harry met sally”らしい。コピペしてNAVERで調べてみると”해리가 샐리를 만났을때”と出てきた。なるほど、これも原題そのままか。そしてハリーとサリーは韓国語表記だとこうなるのか。
「『恋人たちの予感』が似てるかも。お勧めだよ!」
私は彼に何事もなかったかのように返信した。
会話でいえば、この二行だけに集約される。しかし行間には私の2つの検索サイトでの調べ物が詰まっているのだ。彼目線では、ただ質問をして答えが返ってきただけだ。
複数言語と戦っているのは私だけ
好きな映画のタイトル1つ取っても、邦題と原題に加えて韓国題までの3つの名称に振り回されながら、彼と会話をしている。果たして彼は、この私の陰ながらの努力を理解しているのだろうか。
私は彼と電話で「音声のみ」で話しても問題なく会話を成立させることができるし、韓国映画だってもちろんジャンルによるが、大部分は字幕なしで見れる。言語の壁なんて一度も感じたことがなかった。
だからこそ、大好きなビフォアサンライズの主人公の名前すらわからないことが悲しかった。フランス人の「セリーヌ」の英語表記はもちろん韓国語表記なんてわからない。ましてやウィーンは韓国語で「ビエンナ」。外来語という壁が見えた瞬間だった。
この小さな努力を続けながら、彼と向き合っていく自信があるだろうか。ジェシーとセリーヌだったらどうするだろうか。私と彼はコロナ禍の中でどう寄り添えるだろうか。
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