鎌状赤血球貧血症とは何なのか?
鎌状赤血球貧血症をご存知だろうか?
健常者の赤血球は円盤状だが、鎌状赤血球貧血症の患者の赤血球は低酸素状態になると、鎌状(三日月型)に変形し、もろく壊れやすい状態になる。その結果、鎌状赤血球貧血症の患者は赤血球数が減少しやすく、貧血を起こしやすくなるのだ。
なぜ赤血球が鎌状になるかというと、DNAの塩基配列に原因がある。生物のタンパク質は全てDNAの塩基配列による遺伝情報を元に合成される。そして赤血球の95%(重量比)を占めるヘモグロビンもヘム(鉄を含んだ色素)とグロビンというタンパク質の化合物である。
鎌状赤血球貧血症の患者の塩基配列を見てみると、1個の塩基アデニンがチニンに置き換わっていることが明らかになった。そのことが原因で、ヘモグロビンを構成するタンパク質(アミノ酸)が一部変化したのである。つまり、DNAの膨大な数の塩基のうち一つが置き換わっただけで、ヘモグロビンの立体的な構造が変化し、その患者に「貧血」という重大な症状が現れたのである。
鎌状赤血球貧血症は遺伝性のものでアフリカなどで多く見られる。通常、この症状は生存において不利であるため自然淘汰されるはずである。ではなぜアフリカなどには患者が多いのだろうか?実はマラリアと深い関係がある。
蚊が媒介するマラリア原虫は赤血球内で増殖するのだが、マラリア感染初期ではマラリア原虫が感染し鎌状化した赤血球は脾臓で優先的に処理されるのだ。また感染後期では、鎌状化した赤血球によってマラリア原虫は機械的に破壊される。こういったメカニズムによって鎌状赤血球貧血症の患者はマラリアに対して耐性を発揮するのだ。そのため、マラリアが蔓延している地域では自然選択において有利になるのである。
※冒頭の画像はinkscapeで描写した、通常の赤血球と鎌状赤血球
豆知識:DNAに永続的な変化が起こることを突然変異といい、それが生殖細胞に起こるとその突然変異は次世代にも伝わり、これが進化の要因となる。
参考文献1:嶋田正和ほか14名,「生物基礎」,数研出版,(2016).
参考文献2:「Wikipedia」,閲覧日 2021/3/29.