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【短編小説】くびれ
最近世間を騒がせている問題、色々と男女間で認識の違いはあるのでしょうけど、着想から作品にしてみたら、少なくとも思考は浄化されて、安易に実行するべきではないと、参考までに。
実害という観点から言えば、文章で構成して見えてくるのは、決して許されるものでもないのだけれど、表現の文体、文学作品として読んだ場合、正しい意識がそこにあるべきなのだと、考えてしまう。
※以下、性的描写、官能小説的な表現が含まれる箇所があります。
苦手な方はご遠慮ください、構成上必要な前段階な為、作品の性質上掲載せざるを得ませんでした。あえて、お薦めは致しません。他の作品をご覧ください。多数用意しており〼ゆえ。
暗闇の中でアッパーシーツをかぶり、私は夜の努めに勤しんでいた。
「ああ、隠さないでよ」
夫が怪訝そうな声で言う。
私は休むことなく口を動かし続けて、額には大粒の汗が滲んでいた。夫の微妙な下半身の膨らみに何度も苛立ちながら、早く終わらないかとありったけの水分で激しく濡らしては、すべてをふくみ出し入れした。陰嚢の裏辺りを右手で優しく撫で廻しながら、左手でゆっくり上下させて、先端部分を唇で弄んだ。シルクのサテンガウンをはだけられ、夫に釣鐘状の乳房を強引に揉みしだかれると、彼は荒い息をだし始めて私の後頭部に手をまわした。そしてやや無理強いに押されると、溜まった唾液を飲み干した。好きじゃないのに最悪だ。いくら夫婦といえど、この人のだと思うだけで吐き気がこみ上げる。深く息を吸い目を閉じて、心を落ち着かせた。リビングで韓国ドラマ観たかったのに、動きが止まる。
「おーい、また小さくなっちゃうよ」
夫が抑揚のない無感情の境地で言葉を発した。
「ごめんなさい」
上目遣いの私は少し鼻をすすって手を動かした。
「萎えちゃうからさ、そういう事されるとオレ。しっかりね」
私は彼の言葉に反応せずに、舌と口でいやらしい音を立て続けた。長期出張の前日は決まってこうだ。大人しく明日に備えて早く就寝してもらいたい。別に滞在先で女遊びとか好き勝手してもらっても、私は一向に構わないし、金銭を管理しているなら余裕もあるはずだ。許せないのは、さんざん遊んできた彼の小さなシンボルを、他の女が舐めまわした後に妻の私にも半ば強要させ、わざとらしく夫婦の絆を繋ぎ止めておこうとする性根に落胆する。私は貴方から一円も報酬を貰えないし、小言と家事を文句も言わずに受け入れる都合のいい末端の女でしかないのだから。
夫が口の中で静かに果てた。
数か月ぶりのこの苦みにティッシュを慌てて口にあて、喉を鳴らした。何回経験しても自分を正当化できない。サテンガウンを直して鼻水をかむと、彼はベットの真ん中に横になりながら股間を指さして、彼を丁寧に拭いてあげた。
「シャワーで流したら?」
「いい、もう寝るわ」
夫は掛けふとんをサッと整えて壁際に寝返った。こうなったら朝まで起きる事はない。サイドテーブルの灯りを消し「おやすみ」と背中越しに言う。 そっと寝室を出て、真っ暗なリビングで韓国ドラマの続きを観た。何度か試みたが、どうやら夫は交わる事が出来ない体質だ。一切の行為を除外して自分さえ到達すれば満足してしまう。専業主婦でかまわないという甘い囁きに引っ掛かった自分に嫌悪感を抱く日々も、これじゃあ飼い殺しと同じだ、すべてを管理されて私は子供を産むことさえ出来ない。今思えば、彼は流れで相槌を打っていただけで、子供なんて欲しくなかったのだろう。もう一度人生を見つめ直し、私が生きている意味を探したくなった。
悶々とした生活に終止符が打たれたのは数週間後の事だった。秋空の穏やかな天気の午後、突然電話が鳴った。夫の会社からで落ち着いて聞いてくださいと言われ、出張先の南米で亡くなったと告げられた。
その後何を言われたかは記憶が曖昧だ。しかし不思議と悲しくはなくただ漠然と、今後の対応や現地への手配についての説明を受けた。最終便に搭乗して長いフライトの後、領事館と現地の警察の方から思いがけない言葉をかけられた。夫は地元のカルテルによって射殺された事。そしてそれは、まだ幼い少女との性的売春行為中に起きた事を諭された。全裸の夫の股間部分には使用済みの避妊具が曖昧なカタチで留まっている写真もあった。
「少女が扱いの悪さを再三注意したが、結局、組織の癇に障った」通訳と警察と上司の人達の顔は、どこか上の空に近い感じがした。それもそうだろう、私という配偶者がいるにも関わらず、娘同然の子と淫らな行いを強要して、鬼畜めいた非道を強要したのだから、撃たれても仕方がないと思っているのだ。逆に私が少女に謝罪しなければいけないのではないかとさえ、蒸し暑さで脳内が溶けて、まともな思考が現実を遠ざけて眩暈がして来た。
「この事は・・どうかお願いします」
上司の方に頭を下げた。ただただ不憫で仕方なく思え、今にも倒れそうだ。あれだけ頑なに拒絶していた夫が、まさかの性癖を隠していたとは。
事件は未成年の少年を出頭させた組織と警察によって、何事もなかったかのように処理された。私も早く遺体と共に帰国したかったので、帯同した上司と領事館の担当者と相談して然るべき対応をした。
もう彼の相手をしないで済むと思うと、機内の中で人知れず口角が上がって、下腹部の奥の方が熱くなるのが感じられ、股に力が入り頬が赤くなった。
寂しい夜を幾つも越えてその時は訪れた。実家に帰って母とふたり暮らしの生活も安定し始めたころに、街の小さな書店で知り合った蜂須賀という、私よりひと回りは年齢が上の男性は、背も高くて胸板も厚くて、けれど髪はバリカンで刈ったばかりの見事な頭の形をしていて、飾らない男の色気が混在した雰囲気と、その瞳の中に宿った温かい想いに、私は心を鷲掴みにされていた。
何度か逢うたびに、会釈や立ち話から彼がいつ訪れるのかまで把握する私がそこにいた。溢れる感情を次まで抑え込めるか不安な日々を過ごした。 日曜日の夕暮れ時に喫茶店で赤裸々に語る私がいた。彼がどう受け止めたのかは彼にしか分からない事だけど、とにかく私は抱かれたかった。体の芯が熱くなってこのままでは気が狂ってしまうんじゃないかとさえ思う。珈琲を啜りソーサーにそっと置いた時には、すでに蜂須賀さんに犯されている情景を脳内で繰り返して、ショーツが濡れていた。
「変態女に捕まって逃げ出したくなりましたか?」
「いいや、響子さんの切実な悩み。しっかりと訊かせてもらいました」
私は珈琲を少し口にふくんだ。
「ただ、妻帯者で子供もいますから。…その」
「…あっ、ごめんなさい。そうですよね、聞いてもらったから、つい…」 極端な考え方にとうとう理性までが欠落していた。男性が未婚もしくは特定の人がいない条件で話さなくてはいけないのに、顔から火が出るほど恥ずかしくなり今すぐ家に帰りたかった。欲求不満になりすぎて正常な判断やモラルや道徳心という意思決定機関が、オーバーフローして壊れいるようだ。
頭痛や眩暈に似た症状が私を苦しませる。
しかし彼が、意外な言葉を口に出し始めた。
「今日で単身赴任も終わりだから」
単身赴任?蜂須賀さんの言葉が続く。
「明日の午後の便で東京に帰ります」
「えっ?東京?明日?」
「はい、明日」
「あの…この火照った肉体を何とかして頂く訳には」
彼は頷いてしばらく口を真一文字にして宙を見上げた。
コップの水を一息に飲み干して口を拭い、伝票を手にした。
「ご期待に応えられるか分からないけど…」
「意外と大胆に出来ます、私」
「そうなんだ」
「早く抱かれたいから…かな」
ふたりのあいだで笑いが起こった。私にもこんなユーモアがあったなんて。確かに私の躰は、自分で言うのも変だが、もう抑えきれないぐらいに魅力的なカーヴを描いて、数段膨らみやくびれのラインが色香を優雅に際立たせていた。こういう肉感の好きな男性は多いというから、あえて食事の量を増やして、桃尻トレーニング何かも密かに実行していた。今すぐにでも全裸で抱き合いたい。
背徳感と罪悪感が交互に神経を圧迫し、シティホテルへ向かった。
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