大麻によるバッドトリップ体験レポ
(これは友人から聞いた話かもしれないし、僕の妄想話かもしれないしそうではないかもしれない)
正直、迷った。
これを書くことによって大麻への好奇心を駆り立ててしまうのではないかと。
しかし、近年の諸外国の大麻解禁の流れでやや緩みはじめている人々の大麻への危険意識に一石を投じるべく書くことを決めた。
一言で言えば最悪だった。
今こうして思い返すだけでもあの瞬間に引きずり戻されそうで怖い。
私が接種したのはエディブル。つまりは大麻成分を含んだ可愛い見た目のキャンディだ。レゴブロックとかハートとかの形をしている。
その日は420という世界的な大麻の日で、町中では至る所で老若男女が煙を更かし、店には日本ならカメラを向けるのもためらうような品々が所狭しと並んでいた。
私が出店のねーちゃんから購入したのは一粒THC50mgが5個入りで20ドル。
この数時間ほど前にタバコのように吸うタイプの大麻で全くと言っていいほど効果を得られなかった私は、あろうことかこのキャンディ一粒を丸呑み。海外で売ってる赤とか青色のスポーツドリンク的飲み物みたいな味がした。
少し知識がある人はわかると思うが、どの程度の耐性があるか定かでない人間がTHC50mgは殺人行為である。
通常は5mg程度から徐々に徐々に量を増やすものであるし、出店に出ているお手性のエディブルなど本当に正確な含有量か定かではない。
だが、当時の筆者はとにかく早く周りの人間が体験しているような効果を得たいという気持ちが強かった。無知とは恐ろしいものだ。同伴していた人間も普段はもっぱらプリロールタイプのみで、エディブルに対する知識は浅いようだった。
また、大麻を日常的に接種している別の人間からもあなたなら体質的に問題ないだろうと背中を押されたのもあるし、キャンディ一つくらいと見くびっていたのもある。
接種から一時間。
ルームメイトと雑談をしていると、
少し膝の力が抜けるような感じ。
「これは想定してるより効くかもしれない」
と思った。
酒でもそうだが、第三者に醜態を晒したくないという思いがあるので、自分でコントロールが効かなくなる前に自室に撤退する。
ベッドの上で横になり音楽を聴く。
こりゃ凄い。コンサートホールで聴いてるみたいだ。何回も聞いてる曲なのに今まで気にもしなかった音が聴こえる聴こえる。
まるでDTMソフトの編集画面が目の前に浮かび上がってくるよう。イコライザーの調整も自由自在。
触覚もかなり変化している気がする。
掛け布団が体に触れているのが繊細に分かるし、安心感を感じる。
自分が認知・知覚できる境界線が拡大された感じとでも言おうか。
これで催眠音声とか聞いたら最高に最高になれるんじゃないか?!なりたい!!聞くべ!!
と思ったものの、前半のおしゃべりパートを聞いてるうちに段々と目の前が暗くなり寝てしまった。
落ちる直前に、喉が乾いて口の裏を舐めても感覚がなくなっていったのを覚えている。
…………
…………
何分経ったか分からない。
夢の中だろうな。名前も思い出せない友人と話した
「この世界ってなんのために存在してるんだろうな」
なんて会話をふと思い返して、
何やら目に映るもの(部屋のポスターとか、化粧水とか)を謎の基準で採点してポイントを稼ぐ謎のゲームに興じている。
ひたすら高ポイントになるものを探す。
噂によると部屋の外にあるものは高得点らしい。
怖くて採点しにいけないけど。
この時点で私はこの謎ゲームになんの疑問も持っていないし人生のすべてだと思っていた。随分と長いこと続けていた気がする。
ある瞬間、気付く。
点や線がモノクロでぐるぐる回りだして、部屋の景色になった。色が付いた。プラスチックや木などの「素材」の概念を認識した。
概念が複雑であればあるほど高ポイントなのか。
生きる意味ってこんなくだらないポイントゲームだったの?!なんで気づかなかったの?!
というかこのポイントは誰が確認しているの?!
そしてこれは……文字!!!
英語と日本語が無から生み出されるその瞬間を目撃した。
感覚的には、以前Twitterやnoteで話題になった、
グーグルにエロい絵だと思わせる
みたいな感じだろうか。じわじわと意味のない一次元の点から現実世界へと近づいてきている。
ようやく本格的に何かがおかしいと気づき始める。
鼓動が早い。
立ち上がって机の水を飲むが、うまくバランスを取れなくて再びベッドに倒れ込む。舌の渇きが酷い。
つばを飲み込もうとしても出来ない。動作に対する反応が何も返ってこないのだ。
とにかく水を飲まなきゃ。
しかし立てない。ドンドン時間の流れが遅くなっている。頭の中で時計が鳴って、乱雑に並べたメトロノームのようにバラバラにズレていく。
その時こう思ってしまった。
「ここはシミュレーション世界か?」
ということは、言語、インターネット、社会、感情、ありとあらゆる概念はすべて幻?いやまさかね…… 嘘だろ?
次の瞬間、世界はコマ送りのスーパースローモーションになった。思考だけが超高速で展開されていく。
「とりあえず知り合いに助けてもらう?いや、知り合いは愚か、SMSだって勝手に想像した概念だろ世界がシミュレーションだと気づいた瞬間名シーンだなぁこれ段々息できなくなってきてるなこれトゥルーマン・ショーみたいに観客いるのかな俺って世界で唯一ループに気付いた英雄だったりする?なんてすでに過去のループで何千回も考えてるんだろうな。また苦しくなったこれ時計の音に合わせて進行していくのか、バカが書いたプログラムみたいだなfor分ならちゃんと上限決めてくれ仮想世界なら今すぐ目の前に1億円湧いたりしないかな、湧け!というかこの世界は無限に存在するバカが書いた失敗プログラムの一つなのかもなこのままだと人格ぶっ壊れても無限に増大する窒息の苦しみに耐えなきゃいけないどうするマジでこの世界作ったやつ死んでくれ、いやでも創造者は永遠に僕を八つ裂きにしたりできるのかごめん創造者大好き!というか何も考えるな!!!考えるな!無になれ!成れ!ってこの流れも何万回もやってるんだろうなぁ…………」
無限思考に突入である。
ネガティブ思考が襲ってくるたびに鼓動がどんどん早くなっていく。BPM300くらいあったんじゃないかな。
どのくらい危機感を感じているかというと、
少しボーッとしてたら
「君、5億年ボタン押したよね?」
と言われて無慈悲にカウントが始まったくらい。
多分BLEACHで、マユリ様にぶっ刺されたザエルアポロはこんな感じ。
そして最悪だったのが、この時に催眠音声が丁度カウントダウンのパートに突入していたことである。笑い事ではない。
今の体感としては、感じた不安や不快感がドンドンと塗り重ねられていって指数関数的に大きくなってる状態である。快感も例外ではない。
体も動かないこの状況で半永久的に増幅するカウントダウンエクスタシーを食らったらリアル対魔忍である。それはマズすぎる。感度3000倍では済まない。笑い事ではない。
ある人がバッドトリップを「永遠に走馬灯2秒前」なんて形容してたが、言い得て妙である。
不安と諦めとほんの一瞬の希望(無知)が交錯する
永遠にも思える地獄の中で私は多分気絶した。
……………
……………
目が覚める。朝だ。体が動く。しかし、恐怖で部屋の外には出れない。ドアの向こうが存在するという確証が持てないから。
道路を通る車がうるさいな。
…ん?もし仮想世界だったら突然コイツらがハンドルを切って突っ込んでくる可能性もある?
ヤバい!!!!!!
被害妄想のオンパレードが続いていた。
バッドトリップ後3日くらいは外を歩くのも不安でしょうがなくて、少しでもボーっとするとまた景色が回りだすような気がした。パニック発作一歩手前のような状態で他人との話も全く集中できない。
他人に気づかれてはいけないという感情がさらに症状を加速させていた気がする。
一週間経って殆ど症状はマシになったが、
「この世がシミュレーションの可能性」
については常に考え続けてしまっているし、バッドトリップ中の景色は一生忘れないと思う。
あのとき聞いていた良作催眠音声もまだ怖くて聴き直せていない。もったいねー。
病名を安易に言うのは良くないかもしれないが、
軽いPTSDみたいなものかも。
とにかく、とんでもない経験だった。
自分の全く知らない世界。
私は科学を信仰する無神論者だが、
神を信じる人間がいるのも今なら理解できる。
貧弱なゆとり人間が舐めやがってと半分バカにしていた精神病などへの目も自分自身が類似体験をすることで大きく変わった。
しかし、私は大麻の解禁に反対する。
経験した上で、反対する。
確かに容量を守れば圧倒的な幸福感や創造性を刺激する素晴らしいツールであるが、二日酔いや一夜の過ちから何も学べない人類が取り扱うには強大すぎる。
これから先、日本でも大麻解禁に関する話し合いが活発化するだろう。
外国の流れに任せて安易な決断を下さない慎重な姿勢を期待したい。
これは友人から聞いた話かもしれないし、僕の妄想話かもしれないしそうではないかもしれない
【追記】
最終接種から二週間後にフラッシュバックして30分くらい体の震えが止まらなくなった。
現在は心療内科でもらった抗不安剤と睡眠薬でねじ伏せている。大麻でこれならヘロインやフェンタニルはどうなっちゃうんでしょう。恐ろしいものですね。
(もしも通報を恐れて診察室のドアを叩くことを恐れている人がいるのなら心配する必要はない。彼らには患者との守秘義務がある。現在進行系で所持しているなら話は別だが。)