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美術を読み解くには技術がいる?

どうも、最近紹介する書籍を選ぶのが楽しくなってきたWanderer-Kです。
さて、今回は書籍の紹介の第2弾ということで、秋田麻早子さんの『絵を見る技術』を紹介したいと思います。

まず、美術に関して右も左も分からない僕が、どうやって絵画を理解すればよいのかと、色々と考えた結果、思い起すと前回の記事『【引力】を信じるか?』で、美術館でクリムトの作品を鑑賞してきたと述べましたが、その際作品の解説を確認しても、理解出来ないことがいくつかありました。それは作品を描いた理由は勿論、それ以前に絵の配色や構図などについてなんですね。何故この配色にしたのか、何故この構図にしたのか・・・・そういった絵画に関する技術的なことにも興味が出てくるようになったんです。

で、ある日書店をぶらついていると、前述した秋田麻早子さんの『絵を見る技術』が目に止まったんですね。その時、「絵を描くことじゃなく、絵を見ることの技術なんだ!」とその本のタイトルに衝撃を受け、即購入。その後、帰宅し嬉々としてその本を読んでいると、実に色々な事が分かりました。例えば、次のような事です。

1.絵の主役:フォーカルポイント

まず、『絵を見る技術』の中では、パッと目につく箇所を探してみようと勧めています。そこが絵のフォーカルポイントと呼ばれる箇所で、絵の主役であり、画家が最も見て欲しいところだと言うんですね。個人的には最も初歩的な絵を見るための技術だと思います。本の中では、例として高橋由一の『鮭』という作品が挙げられています。

・高橋由一 『鮭』

どうでしょう?見て頂ければ、お分かりになるでしょうが、鮭の顔と赤く身が切り取られた部分に目が行きませんか?これは視覚心理学で言う【図と地】の効果で、人が何かを認識する時ある物が形として浮かび上がることを【図】、それに対して残りが背景として退くことを【地】と言いますが、この絵の場合は【図】である鮭の顔と、赤身の部分がフォーカルポイントと呼べるでしょう。フォーカルポイントがどこか分かれば、画家の主張は、ある程度は分かるはずです。

2.視線を誘導する線:リーディングライン

では次に、フォーカルポイントを探す目印となるものについて、ジョット・ディ・ボンドーネの『荘厳の聖母』で説明してみたいと思います。

・ジョット・ディ・ボンドーネ 『荘厳の聖母』

この絵では、アーチ付きの玉座が作る線で中央に位置する聖母子が囲まれています。その為、この聖母子がフォーカルポイントだと分かります。このように重要な箇所(フォーカルポイント)を引き立たせるための線を、リーディングラインと呼びます。フォーカルポイントが分からない場合は、リーディングラインを手掛かりにすれば、自ずと分かるようになるはずです。

続いては、絵のバランスについて考えてみたいと思います。

3.絵のバランス:リニア・スキーム

絵には、構造線と呼ぶべき柱となる線があります。一例として、上村松園の『序の舞』でご説明します。

・上村松園 『序の舞』

絵画における構造線とは、塑像で例えると芯に当たるもので、絵から「バランスが取れているな」と印象を与えるものです。上村松園の『序の舞』で言うならば、リーディングラインは、着物の裾などから絵の上部、つまり顔に集まっているため、全体としての構造線を主張しています。しかし、絵の中の線は、必ずサブの線を必要とします。この関係性を「リニア・スキーム」と呼びます。『序の舞』では、まっすぐ前に突き出した右手の横線(サブの線)が、バランスを取っている為、しっかりとした印象を与える訳ですね。

4.絵具と色の秘密:脳に直接訴えてくるのは何故か?

では次に、色の見方ついてご説明します。それには絵具の材料と絵の構造を配色の面から考えてみる必要があります。

まず、絵具とは、色の元になる物質と媒材(メディウム)とを混ぜたものです。色の元になる物質には鉱物や動植物から抽出した染料で、媒材(メディウム)には油や膠(にかわ)などがあります。つまり、油と混ぜたら油絵、膠となら日本画となるわけです。

また、配色に関しては、赤・青・黄の三原色が有名ですが、この配色は登場人物などを明瞭に塗り分けたい時などに使われます。エル・グレコの『受胎告知』にも見られる手法です。

・エル・グレコ 『受胎告知』

他にはお互いの色を引き立てる、補色という概念や、近い色による配色同系色などがあります。それぞれの配色の仕方で、あらゆる効果が得られるということが分かります。その結果、鑑賞している側の脳に直接訴えかけてくるものがあるわけです。

5.絵画における設計図:構図について

今度は、絵画における設計図ー構図について語りたいと思います。名画ともなると全てがあるべき場所に、必然性を持って配置されているという印象を受けます。何故なら絵画の構図には、そういった印象を与えるルールが存在しているからです。

絵画には、空間的な位置関係を使って比喩的に序列を示す、上座や下座などに相当するものがあり、画面の上下でシンプルに上下関係を表すことがあります。また、画面の中央には重要なものを配置するというルールもあります。例えば、ミケランジェロの『最後の審判』では、キリストと聖母、聖人たちが画面の上部にいて、あまり重要ではない人々は下部にいます。そして、絵を見る側から言うと、左側が序列が上とみられています。

・ミケランジェロ 『最後の審判』

その他にも、この『絵を見る技術』の中では、黄金比についてなど、絵画を数学的に解説している記述もあります。

6.絵の特徴が生み出すもの:統一感

最後に、全体と細部の関係を見ていきます。形の反復や線の揃え方などの細部が、絵を全体として統一感のあるものにしているか、また絵の主題表現に一貫性をもたらしているかが非常に重要な訳です。

細部といえば、まず輪郭線が挙げられます。例えば、ポール・ゴーギャンの『黄色いキリスト』では、輪郭線をはっきりと描いていました。

・ポール・ゴーギャン 『黄色いキリスト』

しかし、このような描き方は西洋では中世迄で、ルネサンス期に途絶え、19世紀の終わり頃までは無かったようです。

ちなみに日本の絵画では、輪郭線を描くのを【鉤勒(こうろく)と言い、面で描くことを、線を表す骨が見えないということで【没骨】(もっこつ)と呼んでいます。

輪郭線の描き方は、地域や時代によって変わります。ですので、絵画を鑑賞する際には、一歩踏み込んで線の引き方にも注目して見れば、そこに画家の特徴が表れ、絵の描かれた時代や地域を特定するカギになる訳です。著者は輪郭線以外にも、絵画の細部に言及しているので確認してみて下さい。

7.最後には、ちょっとした仕掛けが・・・・

今回この記事で説明した内容は、あくまでも全体をかいつまんで説明しただけであり、この他にも絵を見る技術についての記載は、まだまだあります。また、この本の最後には自分の美意識を説明するためのテストまでついているので、興味のある方は是非ご一読を。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

では、また。



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Wanderer-K
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