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しゃべるピアノ

『ら』

ラッキーとしか言いようのない偶然というものはあるものだ。
偶然と偶然が重なり合えばそれは必然と呼ばれるものになるそうだ。
だとしたら、これは単なるラッキーではなく、運命・宿命の類なのではないか。

はぁはぁと息を切らして目的地にたどり着いた時、雨は小雨から警報級の大雨になっていた。
普段ならこんな雨の日に外出は遠慮したいが、今日に限ってはありがたかった。

息を整えて、大きな洋館の玄関扉をノックする。

何度も。
何度も。
何度も。

家の中から玄関に向かってくる気配を注意深く伺いながら、一定の間隔でノックを続ける。

何度も。
何度も。
何度も。

やがて、扉が開く気配がしたので、慌てて玄関の扉のそばに隠れた。

そして俺は目的を達成した。


それを見ていたのは玄関ホールに置かれていたピアノだけだった。
「ただのピアノ」、それだけだった。


・・・はずだった。

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