付き合いたい、と伝えた日。
二人でよく遊びに行く彼に、夜中にメンヘラ電話をかまし、彼の特殊召喚に成功、海までドライブして、未明に交際を切り出させた私。
まさかアラサーにもなって、自分の誕生日の夜に、一体全体、何をやっているんだろうと、自己嫌悪がとまりませんでした。
そんな夜があけて、1日ゆっくり考えて。
その場では答えられなかったけど、気持ちとしては私も彼と付き合いたい。彼が好きだから、一緒にいたい。それが私の気持ち。
だけど、ごちゃごちゃと渦巻く感情に整理がつかなくて。私のこと好きそうだなって実感がないのに、付き合ったら私がまた苦しくなるかもしれない。ずっと苦しいままかもしれない。そんなことを考えていた。
でも、経験として、付き合ってみるのもありではないか。はじめからだめかもしれないと思いながら付き合えば、傷ついたとしても浅く済んだり、やっぱりだめだったなぁなんて、思えるかもしれない。
そんな心の整理をつけて、付き合う方向で彼と話してみようかと、なんとなく方向性を見つめていた私。
そんな私へ、最後の後押しは、職場の後輩の言葉だった。
一緒にコンサートに行ったり、プライベートでも仲良くしてる、職場の後輩からの突然の電話。
例の男とどうなってるんです?の質問に、これまで先輩だしなと、心のどこかでかっこつけて言わなかったことを、誕生日の出来事はもちろん、その前に重ねてきた逢瀬から洗いざらい全部話した。
かっこいい先輩でいたいと思っていたけれど、そんなの全部ぶっ飛んで、ただの友達として話してしまったな。
彼女は、なんで自分から手を繋ぎたいなって言わないんです?言っちゃえばいいのに、と。
例え断られたとしても、あ、そっか、だめなんだ、で、そこで済むじゃないですか。そこで気持ちが完結する。モヤモヤと考えることはなくなるでしょう、と。
彼と遊びに行きたいけど、あっちからは誘われないし、どうしようと悩んでいた年末にも、おうち鍋しよ!買い出し一緒に行こ!とか言って家に行っちゃえばいいじゃん!とアドバイスをくれた女。
自分のしたいことをハッキリ伝えられる女は強い。
たしかに、私は彼に勝手に期待だけして、そうならないことに勝手に落ち込んでいたけれど、素直に伝えてしまえればよかったのかもしれない。手を繋ぎたいのだと。
これまでモヤモヤと考えてきたけど、彼にどう思われるかとか、こんなこと言って何て思われるかとか、そんなに深く考えずに、とりあえず、飛び込んでみても、いいのかもしれない。
決心がついた。素直になろう、と。
自分の感情を言葉にして伝えるのは苦手だけれど、素直に、思ったことを伝えよう、と。
早めに伝えたほうがいいかなと思い、彼に電話して、私も付き合いたいと思ってる、と方向性をまずは伝えることにした。
電話をする前にLINEで都合を聞いたら、いつでも大丈夫だと答えた彼。いざ電話をしてみると仕事中だった。かけ直そうかと聞けば、仕事中だけど、いつでも大丈夫なんだ、と。
お互い、少しの緊張を感じられるなか、私も付き合いたいと思ってる、ちゃんと会って話したい、と伝えた。彼は、早めに返事くれてありがとう、と。その声はちょっと安心しているように聞こえた。
そして、週末。彼と会った。
もともと私の予定が詰まっていて、ギリギリにならないと会えるかわからない、こちら指定の時間だったけど、行けるよと、当たり前のように迎えにきてくれた彼。
電話のこともそうだけど、身体的接触じゃなくても、彼の行動に、彼の気持ちを感じられるように、私の気持ちもシフトしていた。
私が考えていたより、彼は私のことを優先してくれているのかもしれない。
私からゆっくり話がしたいと誘ったくせに、いざ彼と会うと言葉に詰まってなかなか切り出せず。少しの間、何気ないことを話し合いながら、夕暮れの道を歩いた。
本当はゆっくり向かい合って話したいけど、このまま歩きながら伝えてもいいかな、なんて思って、あの、話すね、と伝えれば、すぐに、座ろっか?とベンチを探してくれる彼。私の気持ちを察したように、落ち着かせるのが本当に上手い。
ベンチに座って、うまくまとまらない言葉だけど、彼に伝える。
私も、付き合いたいと思ってる。でも、あなたにそう言わせるシチュエーションをつくって、交際を切り出させたのは私。あの時これ以上何を知るのって迫ったけど、お互いの理解を深め合う時間は大事だとも思う。もう少し、知り合っていく時間が必要なら、急がなくていいから、と。もう少し、付き合うまでの時間を設けてもいいと提案した。
それに対し彼は、いずれはそうなるんだと思ってたし、俺としては気にしてないよ、今のタイミングでいい、と。きみが大丈夫なら、改めてよろしくね、と、付き合うことに問題はないと、穏やかに笑った。
人間、完璧にわかりあえるなんてできないし、その度に話し合えばいい。付き合って知っていくこともたくさんあるし、タイミングは気にしてない、と。
じゃあそういうことにしよう、と散歩の続きを再開したとき。ちょっとの勇気を出して、彼の腕に手をまわした。
彼は、手を繋ぐの苦手なんだよね、繋ぐのと組むのどっちが好き?と聞いてきて、私は組むほうが好き、と答えた。そうしててくれたほうが俺もいいと、繋げなかった手は腕を組むことで、彼とより近い距離になった。
腕に手をまわして身を寄せても、嫌がったりはしない彼。なんなら、腕を組みやすいようにスペースをあけて私を受け入れてくれている。
なんだ、悲観していたよりも受け入れられている。そう思って、心がきゅんとした。
私が拾えていなかっただけで、これまでもじゅうぶん、彼は行動で示してくれていたのかもしれない。
家に帰ったあとも、彼からLINEがきた。
改めて、よろしくお願いします、と。
ちゃんと私に向き合ってくれている。
少しだけではあるけれど、素直になってよかったと、付き合いたいと伝えられてよかったと、あたたかい気持ちになって、今夜は眠る。
これからは、素直に気持ちを伝えられるように、恥ずかしながら、そんなことを思う。