対魔人アキ【ドブネズミ死す!】
「畜生、畜生、俺のせいじゃねェ……オレは悪くねえ…!」
腕の傷口を縛りながら、男は祈るように呻いた。冷たいコンテナの陰に隠れ、やり過ごす。やり過ごす?相手は化け物だぞ?血のにおいでバレるかもしれない、この息遣いが聞こえているかもしれない、何もかも無駄で、仲間が皆殺しになるまでの間、念仏を唱える猶予が与えられただけなのかもしれない
男は呻くように祈った
「俺じゃねえ……俺のヘマじゃねえょ…そうだろ、わかんなかったんだよ、しょうがねえだろ……寒い、寒いなぁ」
埠頭に吹く海風は冷たく、迷路のように積まれたコンテナの隙間まで須らく吹き抜ける。こんな日は誰も来ない、だからいいんだ、ああいう「取引」には。こんな海風程度で、本来ヤクザは音を上げない
「寒い、ああ寒い……なんて寒さだ、へへ…寒い、冷凍庫みてえな…へへへ」努めて寒さの解像度を上げていく。アレを意識してはならない
「ネズぅ!!」
「ハっ!」
仲間の声だ!本当に?どうする!?足音が近づいてくる!仲間だったとして、「そうでなかった」として、どうする?何を?どうすればいいんだ?
「ネズ」
「ヒィーッ!!」
「何がヒィじゃボケぇ!立たんかい!」
ネズを引き起こしたのは兄貴分のダケイチであった。ヤクザスーツのそこかしこに赤黒い染みが広がっている
「ワレ……クソ、後や。キー持っとるやろ車出せ!」
「アッハイ」
ネズは安堵した。この後指の何本も詰める必要があるが、些事である。生きて帰れる
「アニキ、他の……」
「ヤスと先生は死んだ。その他はわからん。あのクソッタレ幻魔は先に車で逃げた方を追っかけて行ったわい。わかったら黙って歩け!」
「ハイ」
車に着くと、見張りに置いた舎弟が二つになって倒れていた。血の海
「ヨシオ…あ、アニキ…!」
「…」
「……アニキ?」
ダケイチはうつ伏せに倒れた。後頭部に深々と鋭利な何かが刺さっている
暗がりから投擲者が現れた
「ドーモ、キャットベルと申します」
【続く】