闇聖騎士の巡遊
魔王が消えて100年の節目を前に、都では大規模な祭りの準備が進められていた。都市中央の大教会通りには出店がすでに並びはじめ、4日後の聖騎士祭の前前前前夜祭が勝手に始まっている。近くを通る騎士団はそれを咎めない。100年の節目だ、大目に見てやろうじゃないか
「盛り上がるのは我々だけではない、警戒すべきは魔教信者と無協会主義者だ」「今年復活しなかったら、魔王復活も無いんですよね」「陰謀論未満のおとぎ話だ」「魔教の奴ら以外本気にしてないさ」「まぁ、本当に問題なのは無協会ですしね」
3人の騎士は鎧をならしながら歩いた。しばらくすると喧噪も遠ざかり、街並みもくすんでくる。「この辺も無協会ですかね」一人がつぶやく。「この辺はまだ信心深い方だろう、問題は6区からだ」「最近増えたよな」
紫炎騎士団第3分団第7部という騎士の小隊、彼らの任務は第7区の住宅を一軒一軒回り焔聖旗を配るというもの。住民の顔色伺いと、警邏と、示威と、情報収集を兼ねた、かったるくも重要な任務である
協会に懐疑的な者たちにとって騎士は喜ばしい客ではない。無協会主義が多く住む7区ともなれば、住民からの愛想笑いもない。だからといってこちらも不遜な態度をとっていいわけではない、騎士は笑顔を絶やさない。精神的余裕は豊かさの証、騎士の柔和さがイコール教会の権威なのである。と言ってもやはり、疲れる役回りではあった
「変わったことと言えば…旅の剣士みたいなのが最近この辺うろついてるな、2人だ、一人は白いマントに真っ黒な鎧、うすら笑いを浮かべて気味が悪い。もう一人は変わった格好のハゲだ、目が白くて気味が悪い」
「ありがとうございます。何かあれば遠慮なく騎士団へ、では」
情報提供とは珍しい。騎士団に任せたい、それだけ関わり難い外来者という事か
「……面倒事になりそうだな、レプノー、屯所に戻ってもう一人連れてきてくれ」「ビーゴ、とりあえず酒場を当たろう」
続く