対魔人アキ ~幻魔式無慈悲型殺陣トレーニング~後編

「グワーッ!」前回までのあらすじ。アキの師匠が講師として招いた幻魔バーンは授業料のとしてアキの肉体を要求してきた!交渉の末、試合でアキが負けた場合にそうすることになったが、彼は恐るべき使い手であったのだ!試合は一方的展開に・・・・どうするアキ、あやうし!

「シャアッ!」「グワーッ!」「シャアッ!」「グワッ・・・イヤーッ!」「む!シャアーッ!」「グワーッ!」散発的なインファイトでフーセンを狙うが、とどかない!「くっ!」体中が痛い・・・・しこたま殴られ、蹴られ、打たれたが、こちらの拳は一度もあたっていない。

「ハァッ・・・ハァッ・・・なにか・・・・」あるはずだ。フーセンを割るやり方が、真っ向勝負では勝てない。かといってからめ手や奇策がつうじる相手でもないし、通用させる自力もない・・・・だからそれ以外の何かだ。型殺陣(カラテ)でも実(ジツ)の類でもない、戦いのセオリー・・・・

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「だめだよアキ君。もっと速くないと当たらない」「イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤーッ!」「まだだよ。もっと強くないと」「イイイヤァァァァッ!!」「ほら、こんな風に、シャアッ!」「グワッ!」「眼をつむってもいなせる。もっと巧くないと」

正面・・・✖、側面・・・✖、背面、そもそも回り込めない・・・✖、直上・・・✖、各下段、中段、上段・・・✖、遠、近、中、各距離・・・✖、アキは考えうるすべての手を尽くした、バーンはその全てを躱し、いなした

二段モーション、フェイント・・・✖、サブミッション・・・✖、剣術、イアイ・・・✖、柔術、合気・・・✖、相殺覚悟、ステミ・・・✖、ならば・・・それらの複合・・・バーンは躱し、いなす。僅かに重心を落とし、立て板に水を落とすように、安全圏へと滑ってゆく・・・・ならば・・・ならば・・・

それは彼の師匠、タモンからの最初のインストラクションでもあった・・・

((考えてるヒマがあったら身体を動かせ!行動しろ!思いついたものから片っ端にやるんだ!アテの絞り方なんてそうしてれば勝手に身に付く、バカはそうやって勉強するんだよ!わかったか?インストラクショ1!))・・・・

『アクション(行動)しろ!!』「イヤーーッ!」「シャアッ!」「イヤッ!」「何ッ!」バーンの反撃を・・・かわした!目を見開くバーン!それは彼がきょう初めて見せた緊張の体である!流れが変わった・・・アキが・・・変えた!!

「イヤーッ!」回避ムーブそのままに空中で身をひねるアキ!手足を鎌めいて大振りさせたたアクロバットにて慣性を加速させての突発性奥義、斬魔刀ダイコン斬りだ!躍動!!バーンの頭のフーセンの・・・・2ミリ先を掠める!!

おしい!そう思われた読者諸君、そのとおりである!バーンはこれまで回避後スムーズにカウンター攻撃に移行できる2センチというギリギリの間合いを、わざわざ選んで避けていたのだ。相互の実力差を理解した上での、それが最も安全で効率的な殺陣回りだったからだ。

「・・・・小僧」しかし今、かれは踏み込まれた・・・・2センチの内側に!避けることしかできなかった、カウンター攻撃の選択肢を、捨てざるをえなかったのだ!さもなくばフーセンを・・・・割られていたから!!


「フフ・・・」微笑んでいたのは・・・タモン。それは強くなった息子を見つめる、父親めいたまなざし・・・・

「・・・・やりゃあできるじゃねえか」


「・・・小僧、ちょっと・・・・面白いじゃねえか・・・」ヤツの眼差しが、深くなった。今までのはあそび、そうだろ?そしてここから先は・・・次元が一つ上がる、そうだろ・・・・

降参しよう。死ぬ。

でも・・・・ちょっと見てみたい、いまのおれが、足元にも及ばない新次元を・・・・!

「・・・・来いよ、」「その年で、イサオシ・・・・アッパレ・・・・」click!バーンが指を鳴らすと、そこから竜胆色の焔が立ち昇る・・・・バーンが手を正面でスナップし下に向かって振りこむと焔は地に落ち、コンクリートを燃やし始めた。

幻魔の超能力、実(ジツ)だ。彼の扱う鬼火実は、火実のスキルツリーの中でも最も根源に近いもののひとつ・・・・土も、鉄も、ガラスも、水すらも・・・・燃やす!彼が指させば、その方向に延焼する・・・・鬼めいて、どう猛!

型殺陣スタイルも変わった、彼が今まで使っていたのは回避と反撃を極意とするトンボ型殺陣の亜種、ハクロ型殺陣。そしてひじから先を完全に脱力し、重心をやや引き上げたカゲロウめいて幽玄な構えは、カゲロウ型殺陣などではなく、恐るべきヤンマ型殺陣のモーションだ!

アキは感嘆し、呼吸も忘れていた。あたりを包むリンドウ色の焔・・・・その中で妖しく揺れるバーンの陰・・・・仕掛けたら、死ぬ。今わかるのはそれだけ、ただただシンピテキで、おくゆかしい・・・そう、これは・・・・ゼン・・・・

PAM!「エ?」「ん?」バーンの頭のフーセンが、われた。「ナンデ?」「Oh・・・」「ショーブあり!アキの勝ち!」廃アパートの上で見ていたタモンが下りてきた。「ヤラレチャッタ」「ザンネンだな、バーンさん」「アノ・・・・おわりですか?」アキはキツネにチョークされたような顔でいた

「フーセン割れたからお前の勝ちだ、最初にきめたろ聞いてなかったのか?」タモンはにべもなく言い返す。試合終了


三人はタモンの社にもどり、昨日のことを肴に憩っていた。「つまりフーセンには太刀傷がついていてバーンの実であおられてわれたんだ、」「アッハイ」「いやあ悔しいねぇ、アキ君、レンタルしたかったねぇ、オットット!」酒・・・お酌・・・ツナ缶・・・赤飯・・・ドリトス・・・

「アッハッハッ!これおいしいですねぇ!アキ君もドーゾ!」「アッハイ」「オットット」「あ、オウいまアキのケツ触っただろ、別料金だぞ」「さわってないよねぇ?」「アッハイ」朦朧としていた。試合のあと、おれはへたり込んで失禁し、気を失った。緊張のタングステン線が切れたのだ

今日になっても泥のような疲れ・・・・「それでイタダキの奴なんつったと思う?『それはジッチャンに教わらなかった』だってよ!あいつのジジイの顔見てみてぇよなぁ!」「アッハッハッハッ!」ああ・・・・この人たち二人だけなのになんて喧しいんだ・・・・ガチャン!「お?」

アキはツナ缶に突っ伏して寝落ちした「人間にしちゃあケッコウなタフネスだよね、彼」「ああ、苦労したんだぜ?ここまで育てるの」「面白いよ、彼、カワイイし、私を殺せるとこまでいくかな?」「さあ、わからん」

酒が無くなるころには、バーンは姿を消していた

「アキ、昨日おまえが無意識にやっていたのは睥睨だ、風林火山の山の型。集中し、観察し、どこともなくヤツの動きを理解し、対策した。俯瞰でものを見るってのはそういうことだ、やってるつもりでも、実際できてる人間はほとんどいない。まずはスタートライン・・・・」

夢の中か、晩餐の記憶か、タモンの言葉がアキのなかに響いていた

「人間が幻魔と唯一たいとうに戦える要素、わすれるな、アキ。型殺陣、実、風林火山、慮礼敬、仁知勇、イクサとは全霊、フルフォース」

駆け出しの対魔人・アキ。今は眠れ。いつの日か、この日本の芯に巣食う邪悪な幻魔たちと対するその時こそ、真のイクサとなるのだ・・・・

対魔人・アキ、カラダニキヲツケテネ!


                      つづく

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