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【セントラルトコリヤマ、ハケン・ウィンドウサイドオフィス:ウォータージェット】

雨が降り続いている。市内を流れるアブクリバーはいつものように氾濫危険水域に達していた。世界は薄暗く、蒸し暑い。

[冷房:18度・ターボ]

こうでもしないと、この貧弱なエアコンはさして広くもないオフィスの室温を下げるに至らない。ウォータージェットはキイキイと鳴くキャスター付きの椅子にもたれ、ウィスキーを飲んでいた。

ふと、眼を入り口に向けると数秒後、ドアの外に人影が見えた

 「ドーモ」 入ってきたのはオレンジのスポーツサングラスをかけた金髪の青年。腰に鉄塊めいた銀色の長細い箱を下げている。カタナか。ウォータージェットは見抜いた、銃刀法下で刃物とわかる物は持ち歩けない。あれは生体認証で開くサイバネティック鞘であろう

「フン」ウォータージェットは構わずウィスキーを飲んだ。

GRAZZZ!青年はおもむろに手近なオフィス机を壁際にずらすと、空いたスペースで座禅し、微動だにしなくなった。

ウォータージェットは一切構わずラジオのスイッチを入れた。『…すねぇ、ハイぃみなさん川とかには近づかないようにお願いしますねェー、……DEN!中古車販売なら!マカセテ!県内6店舗!』ウォータージェットはウィスキーを注いだ


『ラジオネーム「ナーシサス次元から来た人」さんからのリクエスト「?-MODELL」で「ウォーターフォール寿」……イアーイアーイアーフーンーンー…切りー立つ電子のー……』

ウォータージェットは給仕スペースに向かい、冷蔵庫から氷を取り、ボウルに入れた。席に戻った時には見知らぬ女がパイプ椅子に座り、タバコをふかしていた。「ア?」黒いドレス、バイオリンケース、瞳は黄色と青のヘテロクロミア、胸は豊満であった

「そのグラスさ、もう一個ある?」女はタバコでウォータージェットの持つグラスを指した。「ねえよ」ウォータージェットはグラスに無造作に氷を放り込むとウィスキーを並々と注ぎ、呷った。『このコーナーでは皆さんのおたよりを…』


ふと、3人が入り口を見た。数秒後、ドアの前に人影が現れた

「ッフー…結構冷えてんじゃん」入ってきたのは黒いボディースーツ姿の癖毛の青年だった。

「よぉ、ソレ一人だけ飲んじゃってさ、俺の分ないの?」「ねえよ。」ウォータージェットは構わずウィスキーを呷った。

「これで全員か。ホーンラビットさんが言ったクズってのは」ウォータージェットの一言で、オフィスの雰囲気が少し尖った。「アンタも頭数に入ってるからな酒クズ」と女

「4人もいらねえんじゃねえの?」癖毛の青年の一言で、オフィスの雰囲気は大分尖った。4人とも幻魔特有のキリングオーラを隠さなくなっている。KTAN!画鋲が外れ、壁に掛かっていた『覇』の掛け軸が落ちた。ウォータージェットは氷を嚙み砕いた。


4人はほぼ同時に入り口を見た。数秒後、「ドーモ、みなさん。ホーンラビットです。ゴキゲンヨ」燕尾服の意匠を汲んだスーツ姿の男、ハケン・ホールディングス人事部長が恭しくおじぎした。「ドーモ」女だけが挨拶をかえした。


ホーンラビットは語り始めた

「今日からこの4人でチームを組みます、ア、質問はあとでね、まず聞いて?ウン。えー、貴方たちは『討伐隊』になります。」「討伐?」「質問はあとで」

「討伐対象はコレ」ホーンラビットの取り出したタブレットには、髪の長い少年が映っていた。中性的な顔と体つき、藤色のボディスーツは齢の頃からは想像もつかない洗練された闘争筋肉を一筋の皴もなく包み込み、危険さと妖艶さを見る者に焼き付ける

忘れもしない、対魔人アキ。ウォータージェットの顔の傷が疼いた。

「なんだそいつ、オスかメスか?」「質問はあとでねエレキシープさん。コレは対魔人アキ、と呼ばれるもの。貴方たちは力を合わせて」「その餓鬼を殺せと?舐められたものだ、たかだか対魔士一匹」「んー舐めちゃダメだよ?ブルーセイバーさん。そこのウォータージェットさんは既に一度敗れている。」「ハ!マジ!?ダッッッセ!!」「へぇ…」「…余程のウカツ者だなウォータージェットさん」ウォータージェットは構わず、ジッとホーンラビットを見ている

「ゴメンネ、話し戻すよ?まあコレを殺すなり生け捕るなりしてもらうんだけど、最近協力者がいる事がわかった。幻魔だ」

「は、物好きのヘンタイがいたもんだなァ。まーそんくらいじゃねえと面白くねえか」「舐めるなってゆってんだけどさ、ジャックオランタンさんがコイツ等に殺されてるって言えば、楽な仕事じゃないってワカルかな?」「「「!!」」」「誰よ」「エレキシープちゃんちょっと黙ってて」女がタバコを揉み消した。エレキシープは癇癪を起そうとしたが、女がマジな顔をしていたので黙った。

「ジャックオランタンさんはハケンのトップエージェントだった。君らの一月分の給料を1日で稼いでいた。ン?また話が、アーとにかく、この仕事が君たちの未来を左右する。成功すればボーナス。失敗したらこのウィンドウサイドでずっといてもらう。退職したい時は言ってね、殺すから」


カラン…


ウィスキーの氷が転んだ

「アキ、とか言ったな。そいつも幻魔か?」「人間だ」答えたのはウォータージェット。「フツーの人間でもないがな…」それを聞いたエレキシープは茶化そうとしてやめた。ウォータージェットが凄惨なほほえみを浮かべていたからだ。

「質問、いいよ」「そいつの情報は?」「後で端末に送ります」「ボーナスはいくらだ?」「仕留めた人に700万、その他隊員に100万ずつ」

「捕まえた場合どうする?」「好きにしていい。け・ど、最終的に本社に引き渡すから捨てないでね、死体にしろ身柄にしろ、仕留めた証拠でもある」

「ほかには?」

「ないね?」

「じゃあ、チーム結成!みんな自己紹介しようね!……しないねぇ、じゃあ僕から紹介!」


「ブルーセイバーさん!クライアントを殺してわが社のブランドに傷をつけたクズ!」「フン」

「ナイティナインさん!殺人クエストの手口が派手過ぎてクレームがいっぱい!もう尻拭いしきれないクズ!」「ドーモ」

「エレキシープさん!社外で問題起しすぎるクズ!」「チッ」

「そしてウォータージェットさん!エージェント依頼蹴りまくってトレーニングルームに籠ってるクズ!うちスポーツジムじゃないんだけど!」


「とゆうわけでみんな仲良くガンバロー!じゃあね!」

ホーンラビットは嵐のように去っていった。

ブルーセイバーは座禅に戻った。エレキシープは給仕室を物色し、何もない事に気付くとデリバリーピザの注文を始めた。ナイティナインはタバコをつけ、スケベ雑誌を開いた

ウォータージェットはウィスキーを飲み干すと、早速端末に届いた対魔人アキの情報を吟味し、満面の笑みを浮かべた。『臨時ニュースです。アブクリバーが氾濫したとの情報が入りました。みなさん自分の命を守る行動を……』



「ピザは諦めな」誰か言った

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