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Concept: 壁紙カラースキームでインテリア構想
1) コンテンポラリーとトラディショナル
表題の画像をご覧ください。カラースキーム「GNグリーン」はトラディショナル。英国18世紀のケドルストンホールに見られるような、クラシックなカントリーハウス(お屋敷)の石の色は、GNグリーンに寄ったグレーです。ウィリアム・モリスのオーセンティックな壁紙「ゴールデンリリー」とも響き合います。ゴールデンリリーの柄は中世ゴシックな構成で、質感は凸版版画印刷でインクの厚みやズレによる重厚感があります。それらのデザインの細部を、GNグリーンというカラースキームで代表することができます。
一方で、カラースキーム「LLライラック」はコンテンポラリー。20世紀北欧モダン、リンドベリデザインの壁紙「ポタリー」と響き合います。カラースキームによってクラシックとモダンの境目が表現できています。自然素材というよりは、鉄、ガラス、コンクリートの素材感であり、20世紀に入り、ピカソ他の現代画家が切り拓いたキュビスムや、幾何学柄に生命を吹き込んだアールデコの要素が柄に含まれてきます。そんなイメージが、抽象度の高いレベルで、LLライラックというカラースキームで表現できる面白さがあります。
様々なデザインの細部からいったん離れて、大雑把ですが、ヒトの眼が捉えることができる全ての色を「モレなく」7つに分類して、上記、GNグリーンとLLライラックの違いに見られたように「ダブリなく」それぞれの違いが表現できるカラースキームは、構想段階で大変役に立つソフトウエアであることがわかります。
2) 好きなモノ集め
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家庭科3大カテゴリ「衣食住」における「衣食」、つまり洋服や食事については、生活経験の月日をかけて、それぞれの方々の感性に蓄積され、その後も深められていくことが実感できます。ところが「住」については、家具や雑貨など限られた範囲での表現に留まっていることが多いように感じます。
上記の画像左半分の3枚の写真をご覧ください。2015年頃、ウォールペーパーハウスで開催していた「壁紙の貼り方教室」の実習体験にて、参加者に好きな壁紙を選んで貼ってもらっていました。その様子を写真に残していたのですが、あとで見返すと、どなたも着ている洋服と、選んで実習で貼っている壁紙のデザインに関連が見られることがわかってきました。その関連が最も分かりやすく表現できた3枚がこちらです。「衣食住」の「住」の壁面デザインにも、そこで過ごす方々の感性やアイデンティティを表現するニーズ、役割があると実感させられました。
上記の画像右半分も、ウォールペーパーハウスへ実際に来店された施主さんとのやりとりに基づくものです。当初は、インダストリアルなテイストのレンガ柄を探されている、というニーズで、それは、まさにジョハリの窓で言う「開放の窓」でした。お話を進めていくと、壁紙キュレーションの専門性を理解され「(最初は話してくれていなかった)秘密の窓」が開いて、施主さんがカスタムバイクである、ハーレーダビットソンに乗っているということが分かります。キッチンに貼る予定の壁紙として、ハーレー感の出たフォルナセッティのオレンジ柄の壁紙が選ばれていきます。そこへ、キュレーション上「未知の窓」を開く対照比較のため、リンドベリのプルーン柄の壁紙をお見せすると、それは「ベスパだね」というご発言。お施主さんの感性を表現していく上で、その方にとって、バイクと壁紙の境界線がなくなった瞬間でした。住、インテリアにおいて、バイクに求められるぐらい高いレベルの表現が期待できる、と感じていただけたのだと思います。
3) 平面で構想してから、立体へ
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様々な機会に見えてくる「好きなモノ」たち。住に関して好きなモノをしっかりと求められる方は、衣食のレベルと比べると少数派、イノベーターやアーリーアダプターという顧客層になるかもしれません。そうではなくても、住、特にインテリアに強いニーズを感じない方々のあいだでも、不協和音が出るような色の組み合わせよりは、和音が響くような色の組み合わせが用意されるに越したことはないでしょう
「好きなモノ」=その方の感性やアイデンティティと響くインテリア、そして、そこにあるインテリア自体として空間全体が響き合う組合せ。いずれをも満たしていく、構想のソフトウエアとしてカラースキームをうまく使うことで、様々なニーズの方々にとって、そこで過ごす時間を価値あるものにしていくことができます。
施主さんが好きなインスタグラムの画像を工務店さんに持ち込まれることが良くあるとお聞きしています。毎回持ち込まれる画像が違ってくるので、まとめるのが難しい、という場合もあるようです。インスタグラム画像も含めて「好きなモノ」を3次元空間を考えた基本設計に持ち込まれると、整理が難しくなる可能性があります。最も単純な「色」の話をするのでも、同じ人にとっても単色として好きな色と、全体として整える色は異なる場合があります。全体としてGYグレーや、BLブルーのカラースキームが好きでも、直感で床材をYLイエローのフローリング(典型的なオークやパイン材など)を選ばれてしまうこともあるでしょう。
そこでお勧めなのは、間取りなどが定まってくる前の構想段階で、いったん具体的な空間やモノから離れ、少し視座を高めてフラットな状態で、モレなくダブリなく、手に入るインテリアの「世界」全体を広く見渡してみるという方法です。「世界」から欲しいところを絞り込んでいくソフトウエアたるカラースキームを使って、いわばひとつの「仮説」となる基準を設定、その後に検証しながら基準の精度を上げていくという手順です。
ともにその空間で過ごす方々とも意見を交わし、サンプルで仮説検証を行います。その結果、自分たちが求めるカラースキームの基準が見えてきてから、基本設計、詳細設計へと進み、具体的な間取りや空間、住設建材を定めていくと、様々なエレメントを選ぶほどに深まり、高まる体験を楽しんでいくことができます。その生産性の高い手順は、手戻りも最小限に抑え、完成したときに最高のものになり、その後の生活を経てより自身の感性を高めていくリノベーションへとつながっていきます。
4) 壁紙カラースキームで全体構想を進める4つの方法
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壁紙カラースキームについて、note記事「お部屋の壁紙を響かせるカラースキーム」にてご案内したカラースキームを、実際にどのように使っていけばよいのかをご説明します。2024年1月時点では、上記画像の方法1)~4)の4つの方法が、ウォールペーパーハウスの店頭では運用されています。ウォールペーパーハウスの外部でカラースキームを運用されている方々からのご質問に応えていく形で明文化した方法です。
・方法1)モレなくダブリなく
7カラースキーム(LL,GL,GY; GG; RD,YL,GN)を、眼に見える全ての色をカバーした「世界地図」と捉え、ブルーベースの世界とイエローベースの世界にざっくりと2分して、ABテスト(いずれが好ましいと思うか)を繰り返しながら、細分化して、ひとつのカラースキームや、あるいは、有彩色とベース面に使うニュートラル色をセレクトしていきます。これは、同じか、近傍のカラースキーム同士なら響き合う和音のようになる、ヒトの視神経、脳の認識の性質を使っていて、必ずしも「センス」に頼らない方法です。この手順によって、例えば、50色あるカラーパレットを、一点ずつ見ていくうちに延々と時間が経過してしまう、という事態を避けることができます。50色をABに二分すると、25色が選べ、それをさらにABに二分すると12色が選べ、6色が選べ、3色まで絞り込める、という方法です。
・方法2)限定してダブリなく
カラースキームをまたがって、「青色」っぽいものに限定したり、「赤色」っぽいものに限定して、それらの中で、カラースキームがだぶらないようにリストして、好きな「青色」や、好きな「赤色」から、それらが属するカラースキームを特定していく、という方法です。赤より青の方がカラースキームにまたがるレンジが広く、青が嫌いという方も比較的少ないため、この方法には「青色」を使うと便利です。
最初から「青色」の数を多くして選ぼうとすると、似た青色が増えてダブっているように見えると、方向性が見えなくなっていきます。そういうときは、まさに冒頭の「1) コンテンポラリーとトラディショナル」にあるように、LLライラック・カラースキームに含まれる「青色」と、LLと性質が反対側に来るGNグリーン・カラースキームに含まれる「青色」のAB2択で比較することで、モダンに寄るか、クラシックに寄るか、といった最初の時点での仮説を設定することができます。その後の検証で精度を上げていく上でも、まずは最初の仮説の設定が施主さんの納得感をもってできることが大切です。
・方法3)床建具と同スキーム展開
現状の建築では、新築であっても、壁紙より早く、一番最初の段階でフローリングを決定してしまうことが多いです。フローリングにかかる予算が小さくないことや、工程が早いことから、フローリングのみの先行決定が推奨されることも想定されますが、室内最大面積の壁紙も含めて、決定前にカラースキームを整えて空間全体の色を響かせる検証をするに越したことはないかと思います。
もちろん、実際の木材としてのフローリングに想いを馳せる方もいらっしゃいます。そのため、先行して決定された床や建具のカラースキームをスタートして、残りの壁紙ほかのアイテムの色を定めていくことはよくあることです。そういった場合にも、カラースキームは大きく役に立ちます。選べる床や建具の商品のカラースキームが事前に分類されていると、施主さんにとってはストレスなく好きなものを選べ、事業者さんにとっては手戻りを最小化、品番決定の時間が短縮でき、総合的な生産性を改善しながら、施主さんの満足度を高めることができます。
・方法4)好きなモノを響かせる
家具や照明でも、タイル、壁紙やカーテンなどでも、住のインテリアエレメントで単品で好きなモノが最初からある場合、そのエレメントをいかなるカラースキームで包み込めば全体が響くか、という検証を行います。
そのために有効なのは、英国ファロー&ボール(F&B)のペイントカラーファンです。扇のようにF&Bが定める132色のカラーサンプルが綴じてあるのでカラーファン(=色の扇)と呼ばれています。F&Bの132色を、そのコンプリメンタリーホワイトという、有彩色と響き合うニュートラルカラーの組み合わせを参考にして、本来のアンダートーンの解釈をします。それに従って、7つのカラースキームに分けたカラーファンをリングで綴じたものを「好きなモノ」にあてて、どのカラースキームとつなげると良いか、検証していきます。そこから導かれたカラースキームを、空間の基本設計の基準としていきます。
「好きなモノ」は多くの場合、複数のカラースキームにまたがった色の構成になっているかと思います。複数のカラースキームの候補を用意して、どちらで包み込むことが。その空間を求める響き具合に導くか、判断をしていくことになります。
5) 壁紙サンプルを使って、平面で構想
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参考までの再掲となります。壁紙などの尺角サンプルが手に入りやすく、空間を占める面積も大きい、そして住設建材よりも用意されているカラーレンジが広く、グラデーション巾も細かいことから、カラースキーム構想に使いやすいことを説明しています。具体的な詳細については、note記事「Coordinate: お部屋の壁紙を響かせるカラースキーム」をご覧ください。
6) 壁紙を響かせながら、カラースキームツールとして使う
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参考までの再掲となります。サンゲツリザーブ掲載の「デイリーパレット Daily palette」壁紙を使ったカラースキームツールです(一部はファインの品番を採用)。こちらについても、note記事「Coordinate: お部屋の壁紙を響かせるカラースキーム」をご覧ください。
【ご案内】WALLPAPERHOUSE(ウォールペーパーハウス)は、施主さんから設計・工務店さん、ICさん、内装工事店さん、通りがかりの方まで皆様にご利用いただけるショールームです。構想段階から施工直前まで《壁紙キュレーター》が適切な選択肢を用意することで壁紙やペイントの選定ガイドを行います。
【四国4県各店の所在地・営業日など】
【WALLPAPERHOUSEの使い方】ウォールペーパーハウスでの品番決定後は、内装工事店さん経由の卸売りが多く、状況に応じて小売価格による施主支給もあります。設計・工務店さん向けの勉強会も都度開催しています。