代々木公園と八幡湯
定食屋で昼食を済ませ自転車で代々木公園に向かった。
この日の最高気温は24度。半袖の人も多くなってきた。
風は強かったが、ぬるい風が気持ちよかった。
公園についてソフトクリームとアイスコーヒーを買った。
ベンチを探してる間にミックスソフトを持った右手はベタベタになっていた。
久しぶりの感覚でなんとなく嬉しい気持ちになった。
ようやくベンチを見つけた頃にはソフトクリームは食べ終えていたし、アイスコーヒーも半分以下になっていた。
ベンチでは又吉直樹の月と散文を読んだ。
持ち運びやすい文庫本が好きだけど表紙の硬い単行本。
バッグを持ち歩くのが好きではない自分は大きめのポケットがついたM65型のジャケットを羽織った。
芸人としての又吉直樹も好きだが、作家としての又吉直樹はもっと好きだ。
とにかく不器用で繊細。だけど真っ直ぐだ。
下向きつつも足元だけは照らされている感じがたまらない。
自分と重ねる部分も多い彼の作品に幾度となく勇気づけられてきた。
東京はキミを随分と苦しめるが、最高と思える夜も必ずある。
そしてまた勇気づけられ左の大きめなポケットに本を閉まって公園を後にした。
家に帰ると15時13分を指していた。
今日は銭湯に行くと決めていたので少し休憩してから行くことにした。
近所には銭湯が5つある。
家から近い順に3つの銭湯を周ったが定休日や改修工事でどれも閉まっていて結局代々木八幡まで下りて行った。
そして着いたのが八幡湯。
サウナはなく、広くはない浴槽が1つあるだけ。受付の横の休憩スペースも5人ほどしか座れない。
入浴料は500円。
ランニング終わりのおじさんが軽く汗を流しにくるような小さい銭湯だ。
開店直後だったので僕は3人目の客だった。
長風呂してしまう自分が浴槽に使っている間に新しい顔ぶれの客はどんどん先に上がって行った。
気付けば30分もお湯に浸かっていた。
20円で3分のドライヤーは僕の家のドライヤーの最上位モデルだった。
実はこの八幡湯、僕にとってはとても思い出深い場所で来たのは初めてではない。
5年前、自衛隊に入隊したころ横須賀に住んでいた僕は週末になるとよく一人で東京に遊びに来ていた。その頃から東京に強い憧れがあったのかもしれない。
寮に帰るとシャワーを浴びれる時間を過ぎてしまうため、みんな外出先の銭湯で汗を流してから帰ってくるのが週末のルーティンになっていた。
みんな大体は横須賀市内の銭湯で済ませるのだが、東京に来ていた僕は毎週都内の銭湯を周っていたのだ。
その日も代々木公園を散歩した後の帰り道だった。
今日と同じく暑い日だったから寮に着く頃には汗をかいていた。
あれから5年が経ち、憧れの東京に出てきた僕が最初に入ることになった銭湯が思い出深い八幡湯だということは何かしらの因果を感じる。
もしかすると八幡湯が近くにあるから幡ヶ谷を選んだのかもしれない。
東京に想いを馳せるとき、八幡湯の存在は確かにあった。
大切なことを忘れてしまいそうになったらまたここに来ようと思う。
外に出ると日が暮れ始めていて、ぬるかった風は少し冷たくなっていた。