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フジロックと多様な社会(フジロック'24の感想)

名残惜しくもフジロック'24が終了した。また来年まで待たなければならない。

■フジロックのブッキング担当者に直接聞いた、忙しくてなかなか予習できない人のための「おすすめ洋楽アーティスト11選」

約一ヶ月前に上記の記事を書いたが、実際に見れたアーティストもいれば、見れなかったアーティストもいる。

毎年参加していると、数年後、「2024年のフジロックは何を見たっけ?」となるので(たとえ印象に残る素晴らしいライブであったとしても、人の記憶というのは必ず、新しい情報に上書きされていってしまう)、記憶が鮮明なうちに記録しておこうと思う。

7/25(木)

期間中の宿は苗場でとってあるが、その前に、猿ヶ京温泉の宿で宿泊。ゆっくり温泉につかり、東京からの運転の疲れを解消し、たっぷり寝て、明日からの3日間に備える。

7/26(金)

FRIKO(GREEN)

OMAR APOLLO(GREEN)

GHOST-NOTE(HEAVEN)
今回、一番楽しんだライブ。現代版スライ&ザ・ファミリー・ストーン。期待値が高かったが、生のライブはそれをはるかに超えるものだった。

THE KILLERS(GREEN)
20年ぶりにようやく再来日を果たし、その間、ヘッドライナー級に成長し、フジのトリを圧巻のパフォーマンスで務め上げた。「キャンセルとなったSZAの代打」という印象は完全にふっ飛ばされ、帰りの車の中でKILLERSを聴いて帰るほど、好きになった。

電気グルーヴ(RED MARQUEE)
夜中のレッドマーキーの始まりが電気グルーヴ。ここで電気グルーヴとか狂っていると思ったが、案の定、入場規制。1999年以降、数十年、毎年開催されていた石野卓球主催の「WIRE」でのライブを彷彿とさせるような、最初から最後までノンストップのレッドマーキー仕様のライブで最高だった。本当は最初の曲だけ見るつもりだったが、2曲めが「モノノケダンス」でそこから抜けられなくなった。

E.O.U(GAN-BAN)
朝4時からのgroup_inouまで、どうやって時間をつぶしていようかと思い、ふらりとGAN-BANをのぞいてみたところ、エクスペリエンスな音を、カオスと調和をバランスよくDJしていて、聞き入ってしまった。

group_inou(RED MARQUEE)

The Palace of Wonder(サーカスなど)
空中ブランコすごかった。クリスタルパレスは例のごとく、入ってはみるが、あまりの熱気と湿気にすぐに出てしまう。いつかきちんと楽しみたいとは思っているが、中の蒸し暑さは何とかならないのだろうか……。

7/27(土)

GLASS BEAMS(RED MARQUEE)
入場規制がかかるほどの人気ぶり。素晴らしいライブだったが、人が多く、後ろのほうでしか見れなかったので、再来日を望む。1997年に超話題になった、アメコミ「Spawn」のサントラに収録されていた、オービタル「Satan」のフレーズを取り入れたりしていて、超かっこよかったな。

EYEDRESS(RED MARQUEE)

NONAME(RED MARQUEE)

BETH GIBBONS(GREEN)
ポーティスヘッドをよく聴いていたので、今回、一番楽しみにしていたライブ。ずっとBETH GIBBONSをポーティスヘッドの男性のほうだと思い込んでいたが、ヴォーカルの女性こそがBETH GIBBONSだった。静かで、幻想的で、とても心地の良いライブ。ずっと聴いていられた。

SAMPHA(WHITE)
ちょこっとしか見れなかったが、その世界観と夜の自然の中というシチュエーションが相まって、何だか神聖な雰囲気ができあがっていた。マッシブ・アタックの名曲「TearDrop」を楽曲に取り込んでいたりしていて、マッシブ・アタック好きとしてはものすごくテンションが上がる。もっとしっかりと見たかったな。

KRAFTWERK(GREEN)
普段、あまり楽曲を聴いていたわけではなかったけれど、レジェンドであり、また、ライブがすごいということは耳にしていたので、楽しみにしていた。意外にも政治的なメッセージ色が強く会場がピリついたり、坂本龍一のトリビュートで「戦場のメリークリスマス」を演奏したり(自分たちの曲以外を演奏することはかなり珍しいらしい)と、生でしか得ることのできないすごい体験ができた。

2manydjs(RED MARQUEE)
楽しすぎた。ただ、さすがに90分踊る体力が残っていないため、途中で離脱。

PYRAMID GARDEN
ある意味カオスな本会場を抜け、真夜中、幻想的な雰囲気のPYRAMID GARDENで、のんびりとクラフトビールやコーヒーを飲むのが恒例。1時過ぎにクローズしてしまうので、3時ぐらいまでオープンしているといいのだが、このあたりはファミリー層が多くキャンプしているので、難しいのだろう。ワールドレストランのエリアがなくなって以来、出店料との兼ね合いや、野外フェスにおけるリソースの問題もあるだろうが、お客さん側の視点から考えると、値段と質が見合っていないように思える屋台がだいぶ多くなった(もちろん、苗場食堂や森のハイジカレーなど、クオリティを落とさずにがんばっているお店もたくさんある)が、PYRAMID GARDEN内の飲食店はどこも美味しい。やはり全体を見るプロデューサー的な存在(PYRAMID GARDENではキャンドル・ジュン氏だろうか)は重要と感じる。

どん吉パーク
苗場プリンスホテルの裏にひっそりと存在するカフェ。ライブ演奏もしていて、ジュークボックスもあり、朝5時までオープンしているのがありがたい。ゆっくりと1杯飲んで、この日を締める。どん吉とは、フジロック創始者でSMASH元代表の日高氏の愛犬(どん吉は2015年に他界)のこと。少し離れた席には日高氏もいらっしゃり、来日アーティストのメンバーたちと楽しそうに話し込んでいた。

7/28(日)

PYRAMID GARDEN
最終日。本会場へは行かず、昼間のPYRAMID GARDENで、買い物したり、アコースティックライブを見たりしながら、ゆったりと過ごすことにした。そこで始まったライブを遠くから何となく聞いていたら、「桜」という超有名な曲を歌っている河口恭吾さんというかたで、生でこの曲を聴けてうれしい。

帰宅
途中、再び、猿ヶ京温泉に寄り、好きなカフェ「ね」を訪れてコーヒーを飲む。店員さんと一年ぶりの再会(毎年、前夜祭のみ参加してるらしい)。明るいうちに東京に着くべく、鑑賞したアーティストたちの曲をかけてフジロックの余韻を楽しみながら、帰路に着いた。

【所感】

長年、フジロックに来ていると、アーティストのラインアップはあまり気にならなくなる。もちろん、好きなアーティストが出演すればうれしいが、それよりも惹かれるものがある。それが何なのかを言語化するのは難しいのだが、近いことばで表現すれば「多様性」だろう。もちろん音楽ジャンルや出演アーティストの多様さもあるが、フジロックはそれだけではない。

お客さんはさまざまな場所からやってくる。日本全国からだけでなく、海外からもやってくる。生き方も普段の職業も多種多様で、「この人たちは一体、普段は何をしているんだろう」と思うような人たちも、この3日間のためにこの地に集う。さらに、飲食店などの出店者、会場運営や音響などの技術者、スポンサー企業、NGO、会場を飾るアーティストやパフォーマー、サーカス団、それらのスタッフや大勢のボランティア、音楽関係者、芸能人や文化人。そして、宿やホテル、交通関係者、地元の人たち。これほどの多様な生き方の中に放り込まれると、「ああ、こういう生き方もあるのか」「なるほど、こういうスタイルもありだな」と、視野も考え方も価値観も世界観も、否応なしに広がるし、アップデートせざるを得ない。普段の生活圏内では出会えないような人たちが、会場内にはゴロゴロいる。

何より、それほどの多様な人たちみんなが、ほかのみんなに3日間を楽しんでもらうため、自分の役割を意識的にも無意識的にもこなしている。「ゴミを散らかさない」「楽しく踊る」「笑顔になる」といったことも、もちろんそうだ。ひとりひとりのポジティブな気持ちが、多様なバックグラウンドを超えて、良い空間を生み出している。

そこには良い社会をつくっていくためのヒントがあり、実績が蓄積されていっている。それを体験した人たちが再び社会に戻り、できる範囲で、少しずつでも還元していく。フジロックはそうした力の源を、毎年、掘り起こしているのだ。全員で。


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