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一度は行きたい場所、それは「地平線まで続くひまわり畑」。

どうせこの世界の外に出るのなら、いちめん、ひまわり 見てみたい。

イタリア映画「ひまわり」が日本に帰ってくる。

第二次大戦中のイタリア・ナポリ。ジョバンナ(S・ローレン)と、アフリカ戦線へ送られる兵士アントニオ(M・マストロヤンニ)は海岸で恋に落ち、軍による12日間の結婚休暇を目当てに結婚する。更に除隊を目論んだアントニオだったが嘘がばれ、遠くソ連戦線へと送られてしまう。終戦後、夫の帰りを待つジョバンナは、彼の戦友から敗走中の雪原でアントニオが倒れたと聞き、ソ連へと旅立つ。言葉の通じぬ国で夫を探すジョバンナ。やがて1軒の家を紹介されるが、その家には若妻のマーシャ(L・サベリーエワ)と幼い娘が住んでいた…
監督 ヴィットリオ・デ・シーカ
出演者 ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ ほか

午前十時の映画祭 公式サイトから引用

ヘンリー・マンシーニの物悲しい主題曲が、いちめん、ひまわりに添えられた後
次に、ジョバンナが夫の行方を声を荒げて役人に問い詰める 現在が映し出され
イタリアはミラノの海岸でふたりが出会い、すぐに恋に落ちる過去に移る。

アントニオが戦地へ旅立つ12日間、彼らはささやかな新婚生活を送る。
ささやかな幸福のスケッチの中でもっとも印象的なのは、アントニオが巨大なフライパンに無闇にたくさんの卵を割り、無数の目玉焼きを作るシーンだろう。
アントニオの一族が愛した食べ物:その幸せをジョバンナに振る舞う。
たらふく食べる、ふたりで食べるのが、彼らのささやかなしあわせだ。
(油の代わりに当時貴重なバターを使いたかったのが、アントニオの本音だ。)

その幸せを噛み締める間もなく、アントニオは戦地へと旅立つ、ジョバンナはミラノ中央駅から夫を見送る。
そのまま、アントニオは戻ってこなかった。


ジョバンナは健気に、強く、夫の帰りを待ち続ける。同じ部隊にいたという男から「生きているかもしれない」わずかな望みを耳にする。
それだけを頼りに、愛するアントニオを探しに、ジョバンナはヨシフ・スターリン亡き後のソ連へ向かう。

ここからの話は複雑だ。ジョバンナがアントニオを探し求めたり、逆にアントニオがジョバンナを探しにきたり。
それぞれが未練を断ち切るまでの巡り合いが、延々堂々と続く。
そして最後、それぞれ異なる人生を歩むことを決意したふたりの別れが、ミラノ中央駅で行われる。


タイトルに反して「ひまわり」が出てくるシーンは、そう多くはない。
少ないからこそ、強い印象を残す。
冒頭の、いちめん、ひまわり。
そしてラストシーン、ふたたび、地平線まで続くひまわり畑を
今でも、はっきり、覚えている。

戦争が生む、出会いと別れの儚さ。
まるで、寺田寅彦が「ひまわり」について、こう語ったように。

勢いよく咲き盛る花のかたわらにはもうしなびかかってまっ黒な大きな芯しんの周囲に干ひからびた花弁をわずかにとどめたのがある。大きくなりそこなってまね事のように、それでもこの花の形だけは備えて咲いているのもある。大きな葉にも完全なのは少なく、虫の食ったのや、半分黒くなって枯れしぼんだのもある。そういう不ぞろいなものを引っくるめたすべてが生きたリアルな向日葵の姿である。

寺田寅彦のエッセー「向日葵」より (青空文庫から引用)


短い夏の間だけ、光と夏の中に、いちめん ひまわりが咲いている。
いつか、行ってみたいと、思う。


※劇中のひまわり畑は、ソ連時代のウクライナの首都キエフの南、約500kmのヘルソン州で撮影されたものである。


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ドント・ウォーリー
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