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「アンタのような悪党と手を組むのは、ごめんだね。」_”Pick Up on South Street”(1952)
サミュエル・フラー監督&脚本の「拾った女」は、とあるスリが地下鉄車内で「あるもの」をスったことから大陰謀に巻き込まれる、暴力的でスピーディなフィルム・ノワールだ。
主人公が河にぷかぷか浮かんだ小屋の上で(夜はハンモックで)寝起きしているのも異色だし、スリで事件が始まりスリで事件を終わらせるのも異色だし、ネタバレすると、ハッピーエンドに終わるところも、異色と言えば異色。
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リチャード・ウィドマーク演じる主人公:スキップは、スリなのに悪役とは言い切れない、ってところが曖昧なキャラクターで、それを演じて違和感がない、ってところがまた絶妙。 このスリルある物語をぐいぐい牽引してくれる。
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初見の人は意外にややこしい筋を追うのに必死になるかもしれないが、どうかネクタイ売りで情報屋の陽気なオバサン、モー・ウィリアムズ、演じるは当時名を馳せたコメディエンヌ:セルマ・リッターに注目してほしい。
割りに口差のないことを言うけれど、本当は彼を愛しているのもあって、スキップに時に忠言し、時に他愛もないお喋りを交わす。
正直、声のしゃがれたジーン・ピーターズ演じるファム・ファタールより純でヒロインしてる。
そんな彼女も「あるもの」の在処を求める悪党たちから、銃を突きつけられる羽目となる。 大金と引き換えに情報を引き渡すように要求してきた男:ジョーイに対して、彼女の言葉は当然ノー。
Joey: You'd sell anybody for buttons.
Moe Williams: Yeah, but not to *you*, Mister!
button:意味・対訳
(服の)ボタン、ボタンに似たもの、(ベル・機械などの)押しボタン、(円形の)バッジ、(フェンシングの刀の)先皮、(カメラの)シャッター(ボタン)、(プッシュホンの)番号ボタン、無価値なもの、わずか(なもの)
「あんたと組むのはごめんだね」と、モーは自分自身の人生を参照しながら、見事な修辞で返してみせる。
「くたびれてるんだ、体は悲鳴を上げているんだ、それでも生きているのは最後に立派に死ぬためさ。でも、あんたと組むんじゃ、豪華な葬式も何の意味も持たないね。」と。
Moe Williams: Listen, Mister. When I come in here tonight, you seen an old clock runnin' down. I'm tired. I'm through. Happens to everybody sometime. It'll happen to you too, someday. With me it's a little bit of everything. Backaches and headaches. I can't sleep nights. It's so hard to get up in the morning, and get dressed and walk the streets. Climb the stairs. I go right on doin' it! Well, what am I gonna do, knock it? I have to go on makin' a livin'... so I can die. But even a fancy funeral ain't worth waitin' fer if I gotta do bus'ness with crumbs like you.
make a living 生計を立てる
crumb (パンなどの)くず、かけら、パンくず、パン粉、(パンの皮 と区別して)パンの中身、しん、わずか、人間のくず、ろくでなし
太字を直訳すると「私は生計を立て続けなくては行けない、そうして死ぬことができる。だが、もし私があなたのようなろくでなしと仕事をするのならば、豪華な葬式すら待ち望む価値はない」 といったところか。
彼女は死ぬ羽目となる。
「ゴージャスな葬式は望めないね…」という最後の言葉が、哀しい。
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彼女の死がスキップを事件解決に駆り立てるきっかけであるのが、なんと言うか、熱い。 スキップが、彼なりのやり方で、彼女の死を弔う姿も、また熱くて粋だ。
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