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"異性に恋したなら、微笑めばいい。異性に何かしてもらいたいなら、ウィンクすればいいのさ。"_"The Smiling Lieutenant"(1931)
ミュージカル、と言っては広義すぎる、トーキー草創期に数多く作られた「シネ・オペレッタ」。その代表作の一つ、エルンスト・ルビッチ監督「陽気な中尉さん」より。
古めかしさすら感じさせる、豪華絢爛なコスチュームやインテリアで飾られた王国が舞台。それもそのはず、制作当時、崩壊して十年と少ししか経っていなかったオーストリア=ハンガリー帝国の1900年代を時代設定にしているのだから。
だとしても、ハリウッド映画のにおいを感じさせないって?だって主演男優と監督と原作者が、全員アメリカの余所からやってきたんだもの。
オーストリア帝国の第一親衛隊中尉、ねぼすけで心優しい、愛すべき独身貴族ニキ(演:モーリス・シュヴァリェ)は、バイオリン弾き・フランジー(演:クローデット・コルベール)と恋仲に。
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そこに第三者が割り込んでくる。帝国の友好国であるフラウゼンタウム王国のアンナ王女(演:ミリアム・ホプキンス)。
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言ってしまえば幼馴染ビアンカと御嬢様フローラに挟まれた、天然たらしたるドラクエ5の主人公。
さあどっちをとるかというはなし。ともすれば嫁論争で一触即発を前に、ニキ、フランジー、アンナ王女が三者三葉、とった行動とは…。本作はそれなりに説得力のある結末を迎える。
話は繰り返すようだが、原作がドイツ語圏の歌劇=オペレッタであるために、そして監督も主演もヨーロッパの人間であるために、本作はミュージカルである以上に、ヨーロッパの香りを芬々と漂わせてくる。
集大成たる「ローマの休日」まで以後脈々と引き継がれる貴族と庶民との身分違いのロマンチックな恋。ワルツのまどろんだ調べ。宮殿内の舞踏会の場面の壮観。そして、主人公とヒロインが織りなす甘い甘いダンス…。夢のような、そもそもおとぎ話にしか思えない、この幕間をつなぐのが、のちにルビッチの弟子:ワイルダーにも受け継がれる、軽妙な会話なのだ。
もちろん我らがニキが魅力的なプレイボーイであることも、挙げなくちゃならない。彼の唇から生まれる言葉、ひとつひとつがいちいち気雑ったくて、しかし、粋だ。たとえばこうだ:
Lieutenant Niki: When we like someone, we smile. But when we want to do something about it, we wink.
いっけんパーフェクトなこのプレイボーイが、しかし、相手に向けてウィンクを行った場所を間違えたのが、すべてのドラマの始まり、というのも、また、面白いところだ。
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