大きなお月さん
その夜、ぼくは揺り起こされた。
「やっちゃん、起きて」
小さな声だったけれど、はっきりした言葉だった。
いきなり、ぼくは脇に抱えられ部屋から廊下へ出た。
彼女は勢いよく走った。
全身に不規則な振動が伝わってきた。
すっかり目は覚めてしまった。
施設の中の見慣れた風景は、大揺れに揺れていた。
廊下を抜けて、厨房のドアを開けて夜へ飛びだした。
彼女は、ぼくを両手で抱っこしてくれた。
「空をみて、大きなお月さんやで!」
隣りの修道院の背の高いもみの木の間から、まん丸いお月さんが見えた。
夜空に座っているみたいだった。
十歳ぐらいだっただろうか。
ぼくにとって、初めての特別な夜だった。